October, 28, 2020, 大阪--大阪大学レーザー科学研究所の芹田和則特任助教をリーダーとして、同研究所斗内政吉教授、大阪大学大学院工学研究科の大学院生岡田航介さん(博士後期課程)およびフランス・ボルドー大学、ベルゴニエ研究所の国際共同研究チームは、レーザ光を非線形光学結晶に照射した際に局所的に発生するテラヘルツ波を利用して、病理診断でも識別が難しいとされる、わずか0.5ミリ未満の早期乳癌を、染色を行わずに高い精度でテラヘルツイメージングすることに初めて成功した。
テラヘルツ波を利用した乳癌組織のイメージングは、癌組織と正常組織を、染色を行わずに識別できることから、次世代のオンサイト診断技術としての応用が期待されている。しかし、テラヘルツ波の波長が光に比べて数百倍長いため、その回折限界の影響から、比較的小さな早期の乳癌である非浸潤性乳管癌(=DCIS)を識別することが困難だった。また、DCISは、染色による病理診断でも、病巣そのものの見た目が進行した癌(=浸潤性乳管癌(IDC))と似ていることから識別が難しいとされている。
研究グループは、レーザを非線形光学結晶に照射した際に局所的に発生するテラヘルツ波光源と癌組織を直接相互作用させてイメージングを行う独自のイメージング技術を開発し、0.5ミリ未満のDCISの鮮明なテラヘルツイメージングに初めて成功した。このDCISとその周辺にあるIDCでは、テラヘルツ波の強度が異なっていることを観測し、それらを定量的に識別できる可能性を示唆した。これらの成果は、これまでのテラヘルツ波を使った癌計測と比較して1,000倍近く高い精度で評価できていることを示しており、この手法によってのみ明らかになった知見である。
今回の成果は、染色せずに迅速かつ高精度な癌の病理診断を提供するオンサイト診断実現に向けた大きな1歩であると言える。また、乳癌のみならず様々な種類の癌の早期発見や癌のグレードの判定など機械学習と組み合わせることで、病理診断を強力にサポートできることが期待される。さらにこの技術を応用した新しいテラヘルツ診断デバイスの開発にも期待でき、バイオ・医療分野を中心に幅広い波及効果が見込まれる。
研究成果は、IOP Publishing「Journal of Physics: Photonics」(オンライン)に掲載された。
DOI https://doi.org/10.1088/2515-7647/abbcda
(詳細は、https://resou.osaka-u.ac.jp)