October, 5, 2020, 東京--東京大学 生産技術研究所のユンフイ・ウー 特任研究員と野村政宏准教授らは、光とフォノンの混合状態である表面フォノンポラリトンを用いて窒化シリコン薄膜の熱伝導率を倍増することに成功した。
固体中の熱伝導は、熱の運び手であるフォノンの移動で説明され、薄膜においては表面における散乱によって移動が妨げられるため熱伝導率が大きく低下し、温度が高くなるとますます低下していく。高集積化と微細化が進んだ半導体デバイスでは、小さい領域に大きなエネルギーが注入されるため、局所的な発熱によってデバイス性能が制限されることが多く、放熱を促進するさまざまな工夫がなされている。
研究では、表面フォノンポラリトンに注目し、熱伝導率の低い薄膜構造において、伝搬速度が桁違いに速い光の力を借りることで熱伝導率を増強し、伝導、対流、放射に次ぐ第4の放熱機構としての可能性を探求した。
異なる膜厚を持つ窒化シリコンナノ薄膜における熱伝導率を室温から500度の間で測定した結果、厚さが100nmの薄膜では、温度が上がるにつれて熱伝導率が低下したのに対し、50nm以下の薄膜では、逆に上昇し続け倍増することが分かった。これは、薄膜では表面フォノンポラリトンが熱伝導に大きく寄与し、固体熱伝導と同等以上の放熱機構になり得ることを示す成果。放熱問題を抱える半導体デバイスやシリコンフォトニクス分野への波及効果が期待される。
研究は、フランス国立科学研究センターのセバスチャン・ヴォルツ 教授と共同で行いった。
研究成果は、Science Advancesオンライン版で公開された。
(詳細は、https://www.iis.u-tokyo.ac.jp)