July, 21, 2020, 東京--量子科学技術研究開発機構(量研」)量子ビーム科学部門関西光科学研究所(関西研)の西内満美子上席研究員と他の研究者で構成される研究グループは、量研関西研の超高強度レーザ装置「J-KAREN」を用い銀標的に照射することで、既存技術のイオン加速器の1千万倍に相当する1mあたり83兆Vの電場が発生することを実証し、銀イオンを瞬間的に光速の20%(一秒間に地球を一周半できる速さ)に加速することに成功した。
ピークパワーがペタワットに及ぶ超高強度のレーザ光を物質にあてることで、多価イオンを生成するのと同時に高エネルギーの加速を起こすレーザイオン加速は、加速器の飛躍的な小型化につながる効率的な加速手法として注目されている。今回、研究チームは、J-KARENレーザの世界最高品質の集光性能を上手く利用して、実験条件を最適化することにより、高強度のレーザ光による強烈な電場発生(世界最高値、雷雲の10億倍)、45価の銀イオン生成、及びこれまでで最大となる光速の20%までの加速を実証した。さらに実験結果を詳細に解析した結果、高強度のレーザ光によるイオン生成や電場発生には、レーザパルスの形状(パルスの立ち上がり方)が重要な役割を果たしていることを解明した。この結果は、重元素の場合だけでなく低元素を対象としたレーザ加速に対しても有効であり、陽子線や低元素イオンの高エネルギー加速に向けた指標となることが分かった。
量研では、今回得られた知見を活用して量子メス(次世代小型高性能重粒子線がん治療装置)の早期実現を目指す。また、今後高強度レーザ装置が発展していくと、より重い元素を高エネルギーに加速することが出来るようになり、宇宙の謎に迫るような宇宙物理の研究や短寿命核種の生成などの原子核物理の実験研究が実験室レベルの施設で可能になると期待される。
研究成果はPhysical Review Researchに掲載された。
(詳細は、https://www.qst.go.jp)
研究グループ
量子科学技術研究開発機構(量研」)量子ビーム科学部門関西光科学研究所(関西研)の西内満美子上席研究員(JSTさきがけ研究者を兼任)、ドーバー・ニコラス博士研究員、榊泰直上席研究員(九州大学大学院総合理工学研究院連携講座教授を兼任)、大阪大学(総長 西尾章治郎)レーザ科学研究所の畑昌育特任研究員、岩田夏弥特任講師(常勤)、千徳靖彦教授、九州大学(総長 久保千春)大学院総合理工学研究院の渡辺幸信教授他。