March, 3, 2020, 東京--量子科学技術研究開発機構(量研)他で構成される研究グループは、強いレーザ光を数ミクロン程度に小さく集光して高い強度で物質にあてたときに、電子の独特な振る舞いが発生するメカニズムを解明した。
強いレーザ光を非常に薄い物質に集光し照射することで電子やイオンを発生し、高エネルギーまで加速する「レーザ加速」と呼ばれる現象を起こすことができる。レーザ加速は、従来の線形加速器と比べて100万倍以上高い加速電場を生成できることから、重粒子線がん治療装置などで利用されている加速器の飛躍的な小型化につながる技術として世界各国で競争して研究開発が行われている。これまでに、レーザ光の強度を高くするほど、電子やイオンは高いエネルギーに加速されることが理論的に示されているが、実験的にはレーザ装置の安定性や繰り返しの性能が問題となり、十分に調べられてはいなかった。
今回、研究グループは、関西研で開発した高安定・高繰り返しの高強度レーザ装置「J-KAREN」を用いて、レーザ光の強度及び集光サイズと加速される電子のエネルギーの関係を世界で初めて系統的に調べた。その結果、レーザ光を集光したときのサイズが数ミクロン程度まで小さくなると、これまで信じられていた理論モデルに従わず、電子のエネルギーが頭打ちになることを発見した。スーパーコンピューターを用いたシミュレーション解析により、集光サイズが小さくなると、光の強度が高まり電子が急激に加速されるものの、当初の理論で予測される最大エネルギーに達する前に加速が起こる領域(光電磁場が存在する領域)から外れてしまうという、特有の現象が起こることを明らかにした。
また、この効果を組み込んだ新たな理論モデルを提唱した。今回得られた知見は、より高い加速エネルギーを得るためには、適切な集光サイズが必要で、従来想定されていたよりも大きなレーザパワーが必要であることを示しており、世界各国で競争が激化しているレーザ加速器開発にとって重要な指標となる。
今後、研究グループが提唱した理論モデルを用いてレーザ加速器の設計を行うことで、量研が推進する小型重粒子線がん治療装置(量子メス)の開発に大きく寄与することが期待される。
研究成果はPhysical Review Lettersオンライン版に掲載された。
研究グループ
量子科学技術研究開発機構(量研)量子ビーム科学部門関西光科学研究所(関西研)のドーバー・ニコラス博士研究員、西内満美子上席研究員(JSTさきがけ研究者を兼任)、榊泰直上席研究員(九州大学大学院総合理工学研究院連携講座教授を兼任)、大阪大学レーザ科学研究所の千徳靖彦教授、及び九州大学大学院総合理工学研究院の渡辺幸信教授ら。
(詳細は、https://www.jst.go.jp)