February, 14, 2020, 東京--東京農工大学大学院工学研究院先端物理工学部門の嘉治寿彦准教授と片山美樹雅研究員(当時)、分子科学研究所物質分子科学研究領域分子機能研究部門の平本昌宏教授、中尾聡研究員(当時)らの研究グループは、有機顔料も適切に結晶化すると10 µmまで厚くしても有機薄膜太陽電池の光電変換層としての効率をほとんど落とさずに利用できることを発見した。
有機顔料が従来考えられていたよりも桁違いに大きい厚さでも正常に光電変換素子に利用できることが実証されたことにより、今後、結晶の利点を活かした設計による有機薄膜太陽電池や有機発光ダイオードなどの有機光電変換素子の研究開発の促進が期待される。
研究成果は、スイスの科学誌「Frontiers in Energy Research」に掲載された。
研究成果
研究グループは、有機顔料を適切に結晶化すると、10µmまで厚くなっても有機薄膜太陽電池の光電変換層として利用できることを発見した。この研究で使用した材料はよく知られた有機顔料である、サッカーボール型の分子のフラーレン(C60)と、ペンキの材料にも使われるフタロシアニンとの組み合わせで、これらは過去数十年にわたって標準的な有機薄膜太陽電池用の有機顔料として研究開発に使われてきた材料。通常、この組み合わせの有機顔料を使った有機太陽電池は厚さ40~50 nmを超えると効率が落ちていくのに対して、これらの有機顔料を混合しながら、適切な大きさ(直径100nm程度)の結晶に成長させることにより、10 µmまで厚くしても効率はほとんど落ちなかった。また、幅広い厚さ(40 nm~1 µm)において、有機顔料が吸収した光と発電した電流とがきれいに対応して増えていく関係を実証した。
今後の展開
この研究で達成した10 µmという厚さ自体は、可視光をほとんど吸収する厚さを大幅に超えているため、そのまま有機薄膜太陽や有機発光ダイオードの製品に応用するものではない。一方で、通常数nm~数十nmの厚さで用いられる有機顔料であっても、適切に結晶化すると、従来考えられていたよりも桁違いに厚い10 µmの厚さでも光電変換層として正常に利用できる潜在能力があることが実証されたことにより、今後、結晶の利点を活かした設計による有機光電変換素子の研究開発の促進が期待される。
(詳細は、http://www.tuat.ac.jp)