February, 5, 2020, つくば--NIMSは、多数の光アンテナをジグザグ配線で接続した独自の構造を用い、実用レベルの高い感度を持ち、毒性の低い赤外線検出器を実現した。
長い間用いられてきた水銀やカドミウムを含む冷却式の高感度検出器に置き換わり、ガス分析や赤外線カメラに応用されることが期待される。
ガス分子の多くは赤外域に分子固有の吸収スペクトルを持つため、赤外線は、大気環境中に含まれるガスの分析において重要な役割を果たしている。特にNOx、SOxなど、大気汚染ガスの計測に重要な波長5~10 µmの赤外線の高感度検出には、これまで水銀カドミウムテルライド検出器が用いられてきた。しかし、欧州連合のRoHS指令や近年発効した水俣条約により、有毒な水銀やカドミウムを使い続けることは困難になっており、毒性が低く高感度な赤外線検出器が求められていた。
今回、研究チームは、低毒性材料でできた量子井戸を組み込んだ光アンテナをジグザグ配線で接続することにより、従来の検出器に匹敵する高い感度を持つ赤外線検出器を実現した。この検出器では、厚さわずか4 nmの量子井戸が赤外線を電流に変換する。光アンテナが入射光で共鳴すると、その電流を大きく増強できるが、電流を取り出すために配線を接続すると、アンテナの共鳴状態は乱される。研究では、配線をジグザグに折り曲げて、電磁場が配線を伝わる時間を正確に調整することで、すべてのアンテナの共鳴を維持したまま大きな電流を取り出すことに成功した。
この検出器では、量子井戸も光アンテナも各部の寸法で特性が決まるので、設計に大きな自由度がある。今後、高感度で室温動作する究極の赤外線検出器の実現を目指して、開発を加速して行く。
また、ジグザグ配線でつないだ光アンテナは、赤外線検出器に留まらず、赤外光源など様々なデバイスの重要な基盤構造になるものと期待される。
研究成果は、Nature Communicationsにオンライン掲載された。
(詳細は、https://www.nims.go.jp)