December, 23, 2019, 東京--20世紀最大の発明の一つと言われるレーザ。単色性、指向性、集光性に加え、干渉性が良く、集光状態においてはパワー密度とエネルギー密度が極めて高い熱源となり、ほとんどの材料を容易に加熱、溶融、蒸発させることができる。その特長を活かし、今では切断や穴あけを始め、溶接、はんだ付、ろう付、焼入れ、肉盛などの加工法が実用化されている。さらに、高い精度・品質・生産性によって高付加価値製品が製造できることから、レーザとレーザ加工は今後ますます発展していくと期待されている。
12月9日(月)、10日(火)の両日、産業技術総合研究所・臨海副都心センター別館(東京都江東区)において、 第92回レーザ加工学会講演会が開催された(主催:レーザ加工学会、共催:産業技術総合研究所)。
レーザ加工学会
加工用レーザの高性能化や高パワー化、高品質化は年々進歩を遂げている。一方、有望な加工対象は産業界に数多く存在しているものの、その実力に比べてレーザは十分に活用されていないと言われている。原因は、レーザの高度化・体系化を図る「レーザ科学」と高度な工業製品を製造する「生産技術」とを融合する 「レーザ加工技術」と技術者・研究者が育っていないからだと指摘されている。
レーザとレーザ加工技術が高度に発展するためには、この双方の技術知識を持つ技術者・研究者が数多く研究に関与する必要があり、そのためには国家プロジェクトや企業・研究機関による適切な予算投入も必要となる。
レーザ加工学会(会長:石出孝氏〈三菱重工〉)は、「レーザ科学」と「生産技術」の融合を目的に1978年2月、「レーザ熱加工研究会」として設立され、2001年2月には「レーザ加工学会」と改称、2004年4月に高温学会と合併して「社団法人高温学会 レーザ加工学会」と名称を改め、2012年9月、「一般社団法人レーザ加工学会」としての登記を行い、現在に至っている。
同学会では、年次大会の講演会や定期刊行物の発行などを通じ、レーザ加工に携わる技術者と研究者、初心者からプロまでを支援しつつ、大学や中立研究機関のシーズ研究と産業界の応用ニーズを融合する役割を果たしてきた。また、レーザ加工に携わる多くの技術者と研究者の交流の場を提供するとともに、レーザ加工技術発展のための活動も積極展開してきた。
活動の大きな柱は、年に3回開かれる講演会(論文発表会)で、この他にも学会誌の発行、ワーキンググループ活動、セミナー、国際会議、国内外のレーザ関連研究機関との交流、出版物・論文集・会誌の販売、会員からの技術的な質問への回答・指導など、幅広く活動を展開している。
講演会では、最新の研究発表と活発な議論を行うとともに、レーザ加工に関する最新情報と将来技術をタイムリーに発信しているが、会員ニーズを講演会の運営に反映させるため、分野を大きく二つに分けてプログラムを編成している。その一つが、主にハイパワーレーザによる熱加工を扱うHPL分科会で、もう一つは、超短パルス、紫外レーザ等による精密微細加工を主に扱うLPM分科会だ。
国内外からの招待講演を含めた複数セッションを設け、オーガナイズされたプログラム編成により、大学等の基礎研究と企業からの実用化発表を効率良く情報収集できる内容にするとともに、平成17年度の第65回からは一般講演を、平成18年度の第67回からは一般講演/ポスターセッションを新設して、会員が気軽に参加・発表できる講演会に発展させた。
同学会の関連する国際学会として忘れてならないのがLAMP(International Congress on Laser Advanced Materials Processing:レーザ先端材料加工国際会議)だ。LAMPは、マイクロ・ナノ加工とマクロ加工の両方を扱う国際会議で、Laser Precision Microfabrication(LPM)とHigh Power Laser Processing(HPL)の2つのシンポジウムで構成され、4年に一度国内で開催されている。LPMは、レーザ加工学会ワーキンググループ「レーザによる精密微細加工の将来技術」の第1期の締め括りイベントとして2000年にスタートしたもので、レーザマイクロ・ナノ加工に関わる世界最大規模の国際会議、国内と海外で毎年交互に開催されている。
最新の研究開発成果を発表
今回の講演会では、プレナリーセッションに加え、ハイパワー加工(HPL)と精密微細加工(LPM)のジョイントセッション「レーザ加工とAI」の講演が行われた他、HPL関連では「産業応用1、2」、「モニタリング」、「AM」の各セッションで、LPM関連では「NEDOプロジェクトにおける次世代レーザー技術開発とその応用」、「超短パルスレーザによる表面微細加工」、「レーザ微細加工とソフト・フレキシブル材料」、「ナノ粒子生成」の各セッションで最新の研究開発成果が発表された。ポスターショートプレゼンテーションやポスター・カタログ展示なども行われた。
本稿で、そのすべてを紹介することはできないが、予告プログラムからピックアップしたプレナリーセッションや特別講演の題目、講演者を以下に記してみる。なお、今年のベストオーサー賞は、木村貴広氏(大阪産技研)による「アルミニウム合金粉末を用いたレーザ積層造形体の金属組織制御による熱的・機械的性質の向上」に贈られた。
【12月9日】
◆プレナリーセッション「Artificial Intelligence and Industry 4.0 in the Laser Industry in Germany」Klaus Löffler氏(TRUMPF)
◆(ジョイントセッション)レーザ加工とAI:特別講演「レーザー加工CPSに向けて」小林洋平氏(東大)
◆NEDOプロジェクトにおける次世代レーザー技術開発とその応用:特別講演「高輝度・高効率レーザーの開発とそのレーザー加工応用」湯本潤司氏(東大)
【12月10日】
◆モニタリング:特別講演「Remote laser welding with omni-directional Seam Tracking」Matthias Kuehnel氏(HIGHYAG Lasertechnologie)
◆産業応用2:特別講演「高出力半導体レーザとホットワイヤとを用いた厚鋼板立向き溶接技術の開発」山本元道氏(広島大)
◆超短パルスレーザによる表面微細加工:特別講演「超短パルスレーザによるレーザマイクロテクスチャ加工とその応用」桜井正人氏(リプス・ワークス)
◆レーザ微細加工とソフト・フレキシブル材料:特別講演「フェムト秒レーザを活用したマイクロ流体デバイス技術の開発」ヤリクン・ヤシャイラ氏(奈良先端科学技術大学院大)
◆ナノ粒子生成:特別講演「フェムト秒レーザー誘起プラズマを反応場とするナノ粒子生成」八ッ橋知幸氏(大阪市立大)
レーザ加工とAI
ジョイントセッションでは、注目を集めるAIのレーザ加工への適用にスポットライトが当てられた。最初に登壇した小林洋平氏(東大)は、特別講演「レーザー加工CPSに向けて」の中で、Society 5.0を実現するためのレーザ加工CPS(サイバーフィジカルシステム)を紹介した。
人口減少に直面している我が国では、労働人口の減少と超高齢化にどのように対処していくかが最重要課題とされている。その解決には生産性の向上が必須だ。そこで、型レス製造のできるレーザ加工に期待が集まっている。ところが、レーザ加工におけるパラメータには、周波数やパルス幅、繰り返し回数、材料など、膨大なものがあり、仮にそれらの組合せを1秒間に1回試したとしても、途方もない時間が必要になってしまう。
小林氏は、レーザ加工は高次の非線形性を含む非平衡過程であるとした上で、レーザ加工において現状の「匠」の経験と勘から脱却するため、最適化へ向け大量の加工データを取得して、深層学習でレーザ加工をモデル化するシミュレーションの研究の現状について解説した。一例として、高速カメラによって1秒間に1,000枚の加工データ取得に成功しているという。
講演の最後で小林氏は、レーザ加工のCPS化実現には多彩な光源と観測手法、上質なデータ、大量のデータ、最適化の最適化、学理の構築、ニーズの把握、協調領域の醸成が重要だと述べるとともに、2017年に設立され、現在60を超える法人が参画するレーザ加工プラットフォーム「TACMIコンソーシアム(高効率レーザープロセッシング推進コンソーシアム)」についても紹介、ここで多くのデータを取得して、議論を進めて行きたいと述べていた。
楠本利行氏(光産業創成大学院大)は「機械学習によるフェムト秒レーザ除去加工性能の予測」において、PCD、SPCC、Al、Si、ガラスなどの材料に対し、ニューラルネットワークの機械学習アルゴリズムを用いたフェムト秒レーザ加工による除去量予測モデルの構築について解説した。
各材料に対し340に及ぶレーザ加工条件を設定して、PCD、SPCC、Si、ガラスについては±20%の精度で、Alについては±40%の精度で予測が可能とのこと。楠本氏は、フェムト秒レーザ加工の除去量予測モデル構築に機械学習は有効であるが、予測性能に限界もあり、今後は材料物性の異なるデータ取得を進めるなど、汎用性を高めるノウハウ開発が必要だと述べた。
「ディープラーニングを活用した初層裏波溶接自動化技術の開発」を講演した岡本陽氏(神戸製鋼所)は、アーク溶接における「下向きセラミックス裏当て有り溶接」と「立向きTIG溶接」の初層溶接対象に、ディープラーニング(回帰/分類型DCNN)を用いた溶接自動化の要素技術を開発した。
まだ限定環境であるものの、センシングした溶融池、アーク、ギャップ幅状態に基づき、トーチ動作や溶接条件を制御して自動溶接し、適正な裏ビートが生成できることを確認したという。今後は、DCNNによる自動溶接対象継手の拡充と溶融池認識の頑強性向上を目指すと述べていた。
「溶接技術への深層学習の応用~レーザ溶接の加工点モニタリング~」を講演した鷲谷泰佑氏は、開発したレーザ加工点モニタリングシステムや学習システム、さらに適用事例について解説。同社では、スパッタ検出に深層学習による画像変換モデル「U-Net」を採用、これによりピクセル間での位置ずれを抑えた画像変換が可能になり、学習していない(正解のない)データに対しては、画像処理アルゴリズムで補正を行った。
適用事例としては、溶融部の輪郭が複雑になる隙間がある複数のAl板において溶融池の形状を捉えることに成功するとともに、これまで目視検査に頼っていたスパッタの検出にも成功、難しかったヒュームとの区別が95%の確率で確認できたとのことだ。鷲谷氏は、これまで画像処理では難しかったことが、深層学習を用いることで可能になっており、レーザ加工技術にも適用先が多くあると述べていた。
(川尻 多加志)