October, 4, 2018, 沖縄--沖縄科学技術大学院大学(OIST)のエネルギー材料と表面科学ユニットの研究者は、中国陝西師範大学の刘生忠(Shengzhong Liu)教授との共同研究において、OISTのヤビン・チー准教授と研究チームは、自然界に存在するペロブスカイトの結晶構造を模倣した材料や化合物を用いた太陽電池を開発した。
研究成果はNature Communications に掲載された。
太陽電池の商業化には、チー准教授が「黄金の三角地帯」と呼ぶ3つの条件を満たす必要がある。1つ目は太陽光の電気への変換率が高いこと、2つ目は安価に生産できること、3つ目は耐久性に優れていること。今日商業化されているほとんどの太陽電池では、約22%という比較的高いエネルギー変換効率を有する結晶シリコンから作られている。ただし、このような太陽電池の原料であるシリコンは豊富にあるものの、処理が複雑で製造コストが高くなるため、完成品が高価になっている。
研究チームによると、チームが開発した製造方法では、結晶シリコン系太陽電池に匹敵する効率のペロブスカイト太陽電池を製造でき、シリコン系太陽電池を製造するよりも、はるかに安価ですむ可能性が高い。
研究者らは、新型太陽電池の製造にあたり、透明な伝導性の基質を、太陽光を非常に効率的に吸収するペロブスカイトフィルムでコーティングした。その際、気固反応を用いた技術を使用。まずは基質を、微量の塩素イオンとメチルアミンガスを含ませた三ヨウ化水素鉛の層でコーティングした後、太陽電池の各セルを複数のセルからなる大きな均一パネルにする。
この方法の開発において、研究者らは、ペロブスカイト層を1µm厚にすることにより、太陽電池の稼働寿命を大幅に延ばせることを見出した。「この太陽電池を800時間稼働させた後も、ほとんど変化していない」と論文筆頭著者で、チー准教授のユニットのポスドク研究員であるゾンハオ・リウ博士は語っている。
さらに、コーティングをより厚くすると、太陽電池の安定性を高めるだけでなく、製造プロセスを容易にし、製造コストが下げられる。「より厚い吸収体層は、太陽電池製造の再現性をより保証してくれます。これは、実際の工業規模での大量生産にとって重要な利点である」。
研究チームが現在直面している大きな課題は、新しく設計された太陽電池のサイズを0.1mm2サイズのプロトタイプから、数フィート四方の大型商用パネルに拡大することであり、これには産業界との協働が必要となる。
「研究室と現実の間には大きなギャップがあり、産業界ではこのギャップを完全に埋める準備ができているわけではない。研究者はラボを超えて必要な一歩をさらに踏み出し、研究サイドから業界サイドに近づき、研究と現実を突き合わせなければならない」と、チー准教授はコメントしている。
チー准教授と研究チームは、OISTの技術開発イノベーションセンタ(TDIC)のプルーフ・オブ・コンセプト(概念実証)プログラムによる、潤沢な助成金を受け、その資金を用いてチームは、商業目的に必要となる面積よりも小さいながらも、実験段階の実証タイプよりもはるかに大きい、反応面積が12cm2の5センチ四方の基質上に複数のセルから成る新ペロブスカイト太陽電池モジュールの実用モデルを構築した。このスケールアップのプロセスにおいて、太陽電池の効率が20%から15%に下がったが、「今後数年で機能を改善し、商業化を達成できるのではないか」と研究チームは期待している。
(詳細は、https://www.oist.jp/ja)