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電子デバイス開発に向けて新たなメカニズムを実証

October, 2, 2018, 沖縄--沖縄科学技術大学院大学(OIST)のケシャヴ・ダニ准教授が率いるフェムト秒分光法ユニットの研究員たちは、ナノメートル(nm)の空間規模とフェトム秒(fs)の時間間隔で電子を制御できる可能性のある、光を用いた新たなメカニズムを実証した。研究成果は Science Advances に掲載された。
半導体に電圧を印加すると、物質中の電子の流れを決める電界が生成される。イレイン・ウォン博士と同研究室のメンバーは、表面光起電力効果と呼ばれる物理現象を利用して電界を物質表面に誘起させ、電子の流れを逆の2方向に導くことに成功した。表面光起電力効果とは、光度(光の強さ)を変化させることで物質の表面電位を変化させることのできる効果。ウォン博士は、「レーザ光線の強度の不均一さを利用して局所表面電位を操作し、空間的に変化する電界を光励起スポット内で生成させる。これにより、光スポット内の電子の流れを制御することが可能になる」と話している。
研究チームは、フェムト秒分光法と電子顕微鏡法の技術を組み合わせて、フェムト秒の時間間隔での電子の流れを捉えた動画を作成した。フェムト秒分光法では通常、サンプル内の電子を励起させるのに、「ポンプパルス」と呼ばれる超高速レーザ光線を最初に使用する。その後、励起した電子の状態を追跡するために、「プローブパルス」として知られる超高速レーザ光線がサンプル上に照射される。この手法は、ポンプ・プローブ分光法としても知られており、非常に短い時間間隔で励起電子の運動を観測することが可能になる。さらに、電子顕微鏡を組み合わせることで、レーザ光線スポットの極小領域内でも励起電子の運動を直接撮影することのできる空間分解能が得られる。ウォン博士は、「高い空間分解能と時間分解能を有するこれら2つの技術を組み合わせることで、逆の2方向に導かれる電子の流れを動画に記録することが可能になった。」と話している。
この研究の結果からは、焦点内のレーザ光線の空間強度の変化を利用し、電子運動を光の解像限界を超えて制御できる可能性も示されている。つまり、このメカニズムをナノスケールの電子回路の操作に利用できる可能性がある。ダニ准教授とチームは現在、この新たに発見されたメカニズムに基づき、機能的なナノスケールの超高速デバイスの実現に向けて研究を続けている。