September, 13, 2018, 札幌--北海道大学大学院情報科学研究科の村山明宏教授,樋浦諭志助教,高山純一技術専門職員らの研究グループは,北見工業大学の木場隆之助教と共同で,電子情報を光情報に変換する半導体光デバイスにおいて,電子のスピン情報を増幅・時間的にも一定に維持できる新しいナノ構造を開発した。
電子には,磁石の性質をもたらすスピンと呼ばれる状態がある。電子のスピン状態の偏りを表すスピン分極率は,鉄やコバルトなど金属の強磁性体では一定の高い値を保つ。しかし金属では,電子情報を光情報に変換する発光ダイオードやレーザなどの光デバイスが作製できない。一方,光デバイスに用いられる半導体では,逆に,電子のスピン分極率が刻一刻と低下するスピンの緩和現象が避けられないため,スピンの情報が失われてしまう。
大きさが数10nm以下で電子の個数を厳密に制御できる半導体のナノ構造である量子ドットを利用して,スピンが反転し緩和した電子を選択的に除去することを考えた。これによりスピン分極率を高めたり時間的に一定に保つことが可能になる。スピンの選択的除去を効率よく行うためには,極めて小さな量子ドットの間で,スピンが分極した電子を量子力学的に結合させる(トンネル効果)必要がある。そこで,薄膜状の量子井戸という別のナノ構造を量子ドットにトンネル結合させた新しいナノ構造を作製し,発光中のスピン分極率を最大 80%まで高めるとともに,発光が生じている時間中に一定の値に保つことができた。
研究成果は、 Physical Review Applied 誌にオンライン掲載された。 (詳細は、https://www.hokudai.ac.jp)