August, 2, 2018, Seoul--KAISTの研究チームは、近赤外(NIR)蛍光色素分子ベース光線力学治療法(PDT)を開発した。これは、既存のPDTの欠点を改善するものである。
PDTは、薬剤治療に代えてレーザで傷を治療する方法。レーザが標的部分を照射すると、光線感作物質(PS)が光エネルギーを吸収し、酸素を一重項酸素あるいはフリーラジカルに変換し、プログラムされた細胞死に至る。この治療は、臨床現場で広く用いられており、非侵襲的治療であることから、特に皮膚病で用いられる。
しかし、現行のPDTは一次治療に限界がある。効率が低いと、PDT療法剤が遺伝的変異を起こし、治療効果が低減するからである。
PDTの効果を強めるカギは、目標箇所にPSをどのくらい集中できるか、PSが反応するレーザ波長、治療後PSが細胞小器官を除去する速さ、である。
研究チームは、PDT効果を最大化し不要な副作用を減らす、ミトコンドリア標的光線力学治療(MitDt)という新しいPSを開発した。
ミトコンドリアは、代謝で重要な役割を果たし、膜電位が高いので、PSの効果を最大化する標的箇所となる。
研究チームによると、ミトコンドリアが、レーザ照射後に生ずる活性酸素種(ROS)により光損傷を受けると、ただちにミトコンドリア膜電位が失われ、細胞自然死が始まる。したがって、PDT治療剤とミトコンドリア標的療法剤とを組み合わせると、ガン細胞に迅速な損傷を与えることができ、治療効果が改善し、不要な副作用が減る。
ミトコンドリア標的PS適用を成功させるために、研究チームは、近赤外(NIR)域PDT療法剤を開発した。NIRレーザは浸透性があるので、これを使って深い組織レベルのガン治療を行うことができる。光散乱も減少し、したがって高い治療効果が得られる。
しかし、NIRレーザで照射するとき、一重項酸素生成に問題がある。この問題に対処するために研究チームは、新しいPSを開発した。これは、機能化NIR染料とミトコンドリア標的療法剤を組み合わせて、処置後の細胞小器官を迅速除去する利点を得ようとするもので、ガンのミトコンドリアに長期的にとどまり、標的箇所にレーザを照射することでROS量を増やす。
その効果を検証するために、研究チームは、MitDtをガンを持つマウスに注入した。NIRレーザ662nmで照射してガン処置を誘発すると、ガンのサイズは、3倍縮小した。
この研究のリーダー、PhD候補Ilkoo Nohは、「この強化された光線力学ガン治療は、副作用なく所望の箇所を処置する利点がある。このPSがミトコンドリアガン細胞に長くとどまるからである。われわれは、そのPSが細胞毒性を起こさないことも確認した」とコメントしている。
Kim教授は、「この研究成果は、副作用の危険性を低減し、様々な病気に適用可能である」と付け加えている。
(詳細は、www.kaist.ac.kr)