June, 29, 2018, Champaign--イリノイ大学の研究チームが開発した新しい顕微鏡システムは、化学薬品、染料なしで生きた組織をリアルタイム、分子精度で撮像できる。
同システムは、精密調整光パルスを使用して、複数の波長で同時撮像する。これにより、研究者は細胞や組織内の並行プロセスを調べることができ、ガンの研究者には腫瘍の進行を追跡する新しいツールとなる。また、医師は、組織の病理や診断の新技術を手にすることになる。
研究チームは、同時ラベルフリー自家蛍光マルチハーモニック(SLAM)顕微鏡をNature Communicaitonsに発表した。
SLAM顕微鏡は、いくつかの点で標準的な組織病理学とは異なる。まず、それは生きた組織、生物の中でさえ使用し、臨床診断、手術室の手術ガイドに使用できる。第二に、それは染料や化学物質を使わず光だけを使用する。標準的な手順では、組織サンプルを採りだし、化学染料を加え(これは長いプロセス)、化学物質が細胞を破壊する。
他にも染料を使わないイメージング技術が開発されているが、それらは信号のサブセットだけを可視化する。つまり特定の生物学的、あるいは代謝シグネイチャを計測する、と論文の筆頭著者、Sixian Youは説明している。一方SLAM顕微鏡は、細胞や組織から多数のコントラストを同時収集し、分子レベルの詳細さと、代謝のような動態を捉える。
ごく最近の研究では、研究グループはラットの乳腺腫瘍を周囲の組織環境とともに観察した。同時データが得られるので、腫瘍の進行、様々なプロセスの相互作用の様子など幅広い動態を観察することができた。
Youは、「腫瘍がそこにあることは分かっているが、腫瘍は組織の全生態系をサポートしている。腫瘍は、そのサポートのために健全な細胞をリクルート(補充)する。SLAMにより、われわれはこの進化を続ける腫瘍のマイクロ環境の包括的画像を細胞以下の詳細さで見ることができる。そのプロセスのモニタリングは、ガンの進行の理解向上に役立つ。また将来的には、腫瘍の進行度の診断が改善され、その進行を阻止するためのより優れた治療アプローチが可能になる」と説明している。
研究者は、腫瘍付近の細胞に代謝的、形態的違いがあることを観察した。これは、その細胞がガンによってリクルートされたことを示している。加えて、腫瘍をサポートする基盤を作る周囲組織、コラーゲンや血管などを観察した。また、腫瘍細胞と周辺細胞との小胞形態でのコミュニケーションも観察、小胞は微小な伝達パッケージで細胞から放出され、他の細胞で吸収される。
「以前の研究では、周囲の細胞にサポートさせるために、腫瘍細胞がおびき出すように小胞を放出するのが分かった。次に、リクルートされた細胞が自分の小胞をリリースして腫瘍に返す。これは悪循環である。それは、われわれの管理サンプルに見る健全な組織の活動と非常に違っている。本当の腫瘍環境で全てのこれら重要なプレイヤの力動を見る能力は、この神秘的だが、重要なプロセスを明らかにする助けになる」とYouは説明している。
次にBoppartのグループは、SLAM顕微鏡を使って、ラットと人で健全組織とガン組織を比較する。特に、小胞活動と、それがガンの攻撃性にどのように関係するかを焦点にしている。グループは、臨床的に利用できる、SLAM顕微鏡の可搬バージョン作製にも取り組んでいる。