June, 7, 2018, 京都--京都産業大学神山天文台の鮫島研究員らは、波長1µm付近に見られる地球大気による無数の吸収線を極めて正確に取り除くための手法を確立した。研究成果はPublications of the Astronomical Society of the Pacificに公開されている。
現代の天文学では、さまざまな波長で観測を行い、天体の物理状態を明らかにしている。特に星間空間に存在するガスや塵に隠された誕生後間もない天体、また、比較的進化した低温度の天体などを観測するために、赤外線波長域は非常に重要である。現在、神山天文台では近赤外線波長で観測可能な高効率・高分散分光器 WINERED(波長範囲:0.9-1.3µm、波長分解能:70000(max))を開発し、南米・チリ共和国のラ・シヤ天文台の口径3.6m-NTT望遠鏡に取り付けて観測・研究を行っている。しかし、この波長域には地球大気中に含まれる水蒸気(H2O)や酸素分子(O2)などによる無数の吸収線が存在しており、天体のスペクトルを精密に調べるためには、これらの吸収線を正確に取り除くことが必要である。
神山天文台の鮫島研究員らは、波長1µm付近に見られる地球大気による無数の吸収線を極めて正確に取り除くための手法を確立した。WINEREDを用いると天体のスペクトルを非常に高い精度(S/N比)で観測できるが、その特徴を活かすためには、極めて正確に地球大気吸収線を除去する必要がある。従来は、理論的に計算した地球大気吸収線のスペクトルを用いて補正を行っていたが、この方法ではWINEREDの持つポテンシャルを最大限に引き出せなかった。今回の論文で鮫島研究員らは、固有の吸収線が比較的少ない恒星を観測することで地球大気の吸収スペクトルを精密に決定し、これを用いた補正を行うことで、極めて高いS/N比を最終的に達成できることを示した。こうした緻密なデータ処理手法を確立することで、WINEREDの持つポテンシャルを最大限に引き出すことができ、高S/N比のスペクトルを用いたサイエンス(天体における微量成分の化学組成決定など)を進めることが期待される。
(詳細は、http://www.kyoto-su.ac.jp/)