November, 13, 2017, 東京--東京大学光量子科学研究センター、小芦雅斗教授の研究グループは、一見複雑に見える重ね合わせ状態でも、視点を変えることで、単純な状態に見えるケースがあるという性質に着目し、従来は追跡が困難と考えられてきた量子的なエラーが計算機の動作に与える影響を、通常のコンピュータで正確かつ高速に評価する手法を提案した。
量子コンピュータが動作するために素子に発生するエラーをどこまで小さくしなければいけないかなど、素子に要求される性能の正確な値の計算はこれまで事実上不可能だったが、新手法により通常のデスクトップPCを用いても容易に計算できるようになった。
量子コンピュータは、量子力学の重ね合わせの原理を活用して計算を行う技術で、素因数分解や量子化学計算などの問題を、現代のあらゆるコンピュータよりも高速に解けることが期待されているため、その開発が世界で盛んに進められている。実際の量子コンピュータは、わずかにエラーをもつ素子(量子ビット)を組み合わせて作られるので、それを訂正しながら計算を続ける仕組みの量子誤り訂正が必要になる。その設計には、素子のエラーをどの程度低減できれば誤り訂正がうまくいくのかを見積もることが重要。ところが、量子コンピュータが高速であるがゆえに、この見積もりの計算は通常のコンピュータでは追いつかず、「量子コンピュータの設計には量子コンピュータが必要」というジレンマに陥ってしまう懸念があった。
研究グループは、量子コンピュータが量子的なエラーを訂正していく機構と、もともとは物性物理の分野で知られていた、フェルミ粒子の運動を表す物理モデルとが同一と見なせることを示した。計算機としては、複雑な重ね合わせの状態を経由していくように見える機構が、粒子の運動と見なすことで、通常のコンピュータで計算できる単純な時間変化に置き換えられる。この手法により、従来不可能だと考えられていた、量子的なエラーを考慮した素子に要求される性能を、通常のコンピュータで高速かつ正確に計算することができる。これは、上記のジレンマを解消するもので、実用的な量子コンピュータの開発の促進につながると期待される。また、複雑な重ね合わせ状態の中には、見かけだけのものがあるという発見は、「量子コンピュータはなぜ速いのか?」という根本的な問題の解明により深く迫るものと言える。
研究成果は、Physical Review Lettersに掲載。
(詳細は、http://www.t.u-tokyo.ac.jp)