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光で多彩な有機トランジスタ機能を描画することに成功

November, 17, 2016, つくば/京都--物質・材料研究機構と京都大学の研究グループは共同で、光異性化分子の薄膜に光を照射することで、トランジスタ回路などさまざまなデバイスを描画することに世界で初めて成功した。光異性化分子は、光照射によって絶縁体と半導体の性質を交互に変更できるため、回路の書き換えや電流の制御も可能であり、今回の成果は、論理計算デバイスの作成技術としても期待される。
 研究グループは、物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の鶴岡徹 主幹研究員、早川竜馬 主任研究員、若山裕 グループリーダーと京都大学工学研究科の松田建児教授、東口顕士 助教。
 光異性化反応とは、可視光や紫外光を照射すると分子の構造や電子状態が変化する反応。変化後も照射する光の波長によって元にもどすことができるため、古くからメモリやセンサに応用できることが指摘されてきた。近年、有機トランジスタの中に光異性化分子を添加して、光に応答するトランジスタ素子の開発が活発になってきたが、微量の光異性化分子を混合するだけであったため、光で誘起できる電流値の変化は2倍程度だった。一方、有機トランジスタ自身の製造技術としてフレキシブル基板に印刷で素子を作製する技術開発が進められているが、従来技術では有機分子が簡単に壊れてしまうため、微細化や回路設計に課題が残っていた。
 研究グループはこれまで、光異性化分子を直接トランジスタのチャネル層として使うことで1,000倍を超える電流値の制御に成功していた。これは光異性化反応と半導体特性の両方の性質をもつ新しい材料を見出したことと、光で半導体と絶縁体の性質を交互に引き出せるという新しい現象を見出したことによる成果。今回の共同研究では、これらの成果を発展させて、絶縁体状態の光異性化分子の薄膜に極細の光を照射して、一部を半導体にすることでトランジスタ回路を描画することを試みた。
 共同研究グループは、独自に組み立てた光照射技術と電気特性評価技術を駆使して、ワイヤ状の一次元トランジスタチャネルを並列接合する技術、あたかもバルブで開閉するかのように局所的な光照射で電流の流れをON-OFFする光バルブ機能、Y字構造をしたトランジスタチャネルなど、これまでにない新しい動作原理やデバイス構造を実現した。さらに、光を照射して絶縁体と半導体の性質を交互に変えることで、何度でも書き込みと消去を繰り返すことができるという要素技術 (あるいは機能) をもとに、光強度を変えることで電流を段階的に制御できる加算回路の作製にも成功した。
 今回の成果は、単に有機トランジスタの新しい作製手法であるだけでなく、これまで有機エレクトロニクスが苦手としてきた微細化や複雑な回路設計への応用が可能。将来的には論理演算デバイスの光描画も期待できる。
 研究成果は、Nano Letters誌オンライン版にに公開されている。
(詳細は、www.nims.go.jp)