October, 25, 2016, 東京--NICTは、超伝導ナノワイヤ単一光子検出器(SSPD)の波長特性を自在に設計可能な新しい光学構造設計手法の開発に成功した。
この技術により、広い波長帯域にわたる高い検出感度や、特定の波長領域をカットするフィルタ機能を有するSSPDの設計・開発が可能となる。今回の成果は、検出する光波長に対して高感度を維持しつつ、不要な波長の光をカットすることで究極的な低ノイズを実現することが可能となり、量子暗号通信や蛍光相関分光をはじめとする幅広い分野での実用化に向けて大きなブレークスルーとなるものである。
今回、SSPDにNICTが独自に考案した誘電体多層膜を用いたデバイス構造を採用し、光学シミュレーションによる最適化を行うことで、所望する光吸収効率の波長特性、つまり、吸収する波長帯域とカットする波長帯域を自由に設計が可能な新手法の開発と実証に成功した。
SSPDの検出感度は光吸収効率に比例するため、所望の波長における光吸収効率を最適化することが重要となる。従来SSPDで用いられていた光キャビティ構造では、キャビティ層の膜厚を調整することにより、ターゲットとなる波長に対して光吸収効率を最大化することはできたが、周辺の波長に対する特性を制御することはできず、不要な波長をカットすることでノイズを低減することは困難だった。
今回、SSPDに新たに誘電体多層膜による光学構造を採用することにより、所望の波長特性の設計が可能になった。シリコン基板上に2種類の誘電体(二酸化シリコン及び二酸化チタン)から構成される多層膜を積層し、その上に超伝導体である窒化ニオブのナノワイヤを配置した構造を採用。この構造において誘電体多層膜の層数や各レイヤーの膜厚を最適化することで、ナノワイヤの光吸収効率について所望の波長特性を実現することができる。最適化したデザインに基づいて実際にSSPDを作製し、検出効率の波長特性を評価した結果、光学シミュレーションによる計算値と極めてよく一致することが分かり、開発した手法の有効性が実証された。これにより、広い波長範囲にわたる高検出効率化や、不要な波長のカットによる低ノイズ化が可能となる。
また、ナノワイヤにおける光吸収効率の波長特性を最適化するため、光学多層膜計算と有限要素解析の2段階で光学シミュレーションを行い、SSPDにおける検出効率の波長特性が効率的に設計できるようになった。
NICTが研究の立案から素子の設計・作製、評価・解析を行い、本成果に至った。また、素子評価の一部に関しては、大阪大学及びNICTインターンシップ制度を通じたグラスゴー大学(英国)の協力を得た。
今回開発した誘電体多層膜付きSSPDと波長特性設計手法は、紫外から中赤外の広い波長領域で適用可能であるため、高感度と低ノイズの両立が重要となる量子暗号通信や、生命科学分野における蛍光分光測定、微弱光によるリモートセンシング技術など、今後のSSPDの幅広い応用展開に向けた重要な基盤技術となる。また今後、多層膜に用いる誘電体の材料や組合せを検討することで、より広帯域に対応した素子や、複数の波長領域に最適化した素子等、応用ニーズに合わせて様々な波長特性を持つSSPDの実現が期待される。
(詳細は、www.nict.go.jp)