October, 20, 2016, つくば--筑波大学数理物質系の後藤博正准教授は、世界で初めて、らせん光を用いた「絶対不斉電解重合に成功した。
研究では、触媒にも液晶にもよらず、光と電気で不斉構造を誘導する新しい重合法として、円偏光パルスレーザを照射しながら導電性高分子の電解重合を行った。その結果、右回りあるいは左回りのらせん構造をもつ光学活性な高分子を選択的に合成した。
研究では、右回りあるいは左回りの円偏光パルスレーザを照射しながら、導電性高分子の電解重合を行った。その結果、照射する光に応じて、選択的に右回りあるいは左回りのらせん構造をもつ光学活性な高分子の合成に成功。この方法により、触媒にも、原材料で、あるモノマにも高価な光学活性体を用いずに、化学的な不斉構造ゼ口の状態から分子の左手型と右手型をつくりわけられることを実証した。現在までに、不斉構造をもっ低分子でもこのような試みが行われてきたが、共役系高分子(導電性高分子前駆体)でこのような合成を電気化学的に行ったのはこの研究が初めて。
実際に用いた化合物は、ポリチオフエンを主鎖骨格にもち、側鎖に発色団であるアゾベンゼンをもっている。ポリチオフェンはらせん構造をもつことが可能な導電性高分子。またアゾベンゼンは染料やCDにも用いられる色素で、レーザ光をよく吸収する。このモノマを有機溶媒であるアセ卜ニトリルに溶かし、さらに電解質で、ある有機塩を加える。この溶液に、作用電極である透明導電性ガラス(ITOガラス)と対向電極(プラチナ線)を浸す。ここにパルスレーザ円偏光を照射しながら両極聞に電位を与えると、光を受けながら電解反応が生ずる。このとき、パルスレーザ円偏光はらせん構造を誘導し、電気は高分子を成長させるために働く。
電気化学的に合成されたポリチオフェンは通常、右手型と左手型の立体構造が50%ずつ混在している。しかしこの方法では、照射されるレーザ円偏光と開方向にらせんを巻くポリチオフエンのみが光分解され、残った片側の巻き方向のらせん構造をもつ不斉高分子のみを選択的に得ることができる。
高分子には低分子に見られない「高分子効果」がある。これは低分子が連続してつながることにより、低分子の物理的性質が大きく現れることをいう。例えば低分子では小さかった導電性が、高分子になると大きく現れ、導電性高分子となる。光学活性物質も高分子化することにより、この光学活性が大きく現れ光を回転させる。
今回は、側鎖にアゾベンゼンをもつポリチオフェンを合成したが、将来的には光でさまざまな光学活性物質を合成できることを示唆しており、食品や医薬品の合成(注6)にも貢献できる可能性をもつ。
研究の成果は、Philosophical Magazine Letters誌に、2016年10月11日付けでオンライン公開された。
(詳細は、www.tsukuba.ac.jp)