October, 14, 2016, 和光--理化学研究所(理研)放射光科学総合研究センター放射光イメージング利用システム開発ユニットの武井大客員研究員(立教大学先端科学計測研究センター研究員)、香村芳樹ユニットリーダーらの研究チームは、大型放射光施設「SPring-8」を使い、結晶の歪みでX線を制御する「X線導波管」の開発に成功した。
X線は物質を透過しやすい性質から、医療や科学研究の根幹を支える重要な光である。しかし、その高い透過性のため、日常的に使用する可視光用の鏡やレンズではX線をうまく操ることができない。X線をきれいに効率よく操るためには、高い精度で加工された専用の光学素子が必要になる。また、それらの使い方にもさまざまな工夫が不可欠。これらの事情から構築できるX線光学系の自由度は可視光のそれと比べるとかなり低いため、結果として多くのX線実験はさまざまな制約を受けている。X線を制御する新しい手法を開拓すれば、より多くの選択肢から幅広い実験が可能となる。
研究チームは歪んだシリコン単結晶に、「ブラッグの条件」付近で照射したX線の軌跡と向きの変化を調べた。その結果、光が持つ波としての性質が結晶の歪みで強調され、X線の向きは変わらず位置だけが大きくずれる現象(横滑り現象)を発見した。これは、先行する理論研究の実証へとつながった。さらに、この現象を応用することで、結晶の歪みを最適化してX線ビームの軸を任意に平行移動(横滑り)できるX線導波管を開発した。
この技術により、光ファイバのように結晶を通じてX線を伝送することが可能となり、将来的にさまざまな放射線・X線実験における手法および戦略の拡充へとつながる可能性が期待される。
研究チームはまず、「圧電素子」で薄膜結晶の歪みを制御するための装置を開発した。続いて、大型放射光施設「SPring-8」のビームライン「BL29XUL」で単色かつ平行度の高い良質なX線ビームを作り出し、開発した歪み制御装置に搭載した薄膜シリコン単結晶の試料に照射した。結晶試料の角度を「ブラッグの条件」付近になるよう維持し、入射したX線が高い効率で横滑りを起こす条件となるよう結晶の歪みを調整。続いて、結晶中を横滑りした後に出射したX線の状態を詳しく調べた。その結果、横滑りして出射したX線ビームの向きや広がり具合は、入射時の状態とほぼ等しいことが分かった。
これは、澤田らの提唱した理論予測を支持する結果。この現象により光が持つ波としての性質が結晶の歪みで強調され、X線の向きが変わらず位置だけが大きくずれることが分かった。
また、この現象を応用することで、結晶の歪みを最適化してX線ビームの軸を任意に平行移動(横滑り)できるX線導波管を開発した。さらに圧電素子を振動させて結晶試料の歪みを任意に変動させることで、出射するX線のオン・オフを電気的に切り替える光スイッチとしての動作にも成功した。