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超高速光信号処理を可能にするシリコンナノ粒子を開発

August, 29, 2016, Lichtenfels--ITMO大学とモスクワ物理・技術研究所(MIPT)の物理学チームは、効果的な非線形光操作にシリコンナノ粒子の潜在性を実証した。この成果は、広範な機能を持つ新しい光デバイスの開発の基盤となる。
 これらシリコンナノ粒子ベースのデバイスは、その強度次第で、入射光を特定の方向に透過、反射、散乱させることがてぎる。また、マイクロチップに統合することも可能であり、これによって超高速、オールオプティカル信号処理が光通信や次世代光コンピュータで可能になる。
 幅広いスペクトル範囲の電磁波が情報伝送に使用されている。空中の信号伝達用の無線、光ファイバによる通信やデータ伝送で使用される赤外光や可視光。情報伝達や処理で電磁波に依存する装置の重要コンポーネントはアンテナである。これは、特定の方向で信号を受信、送信するように設計されている。たいていの場合、入力信号が柔軟に処理される必要がある。この場合は、再構成可能なアンテナを利用する必要がある、つまり信号処理中にその特性(例えば放射パタン)が特定の方法で変更可能である。1つの可能なソリューションは、入射光そのものによって切り替え可能な非線形アンテナを利用することである。
「赤外および光周波数で動作するチューナブルアンテナの開発は最優先にして主要課題である。光波長で動作する非線形ナノアンテナは、こうした問題の解決に役立ち、超高速、オールオプティカル信号処理を可能にする」とMIPTのPh.D学生、Denis Baranovは説明している。
 非線形スイッチングを実証するために研究チームは、シリコンでできた光共振球状ナノ粒子、誘電体ナノアンテナを研究した。全てのサイズの球状粒子は共振を示すが、その共振波長を決めるのは粒子サイズである。これらの共振の最初は、最長波長で観察でき、磁気双極子共鳴である。ある波長の入射光が粒子に円形電流を生じさせる、これは閉回路を流れる電流と同じである。シリコンは屈折率が高いので、100 nmに近い直径の粒子は、光周波数ですでに磁気双極子共鳴を示し、ナノスケールで様々な光学効果の強化に役立つ。研究チームは、初期の研究ですでにラマン散乱強化にシリコンナノスフィアを利用していた。
 非線形シリコンナノアンテナの光学特性は、電子プラズマ生成という手段で操作される。シリコンは半導体であるので、通常の状態では、その伝導帯に電子はほとんど存在しない。しかし、高強度で非常に短いパルス幅のレーザ光を当てると電子を励起して伝導帯に上げることになる。これによってシリコンナノアンテナの挙動とともに材料の特性が大幅に変わり、入射パルスの方向に光を散乱する。したがって、粒子に強い短パルスを当てることで、アンテナとしてのその挙動は動的に制御可能である。
 超高速ナノアンテナスイッチングを実証するために研究チームは一連の実験を行った。ここではシリコンナノ粒子アレイに高強度短パルスを照射し、その伝送を連続計測している。構造の透過係数が100 fsの数パーセントで変化し、徐々にその初期値に戻ることを研究チームは観察した。
 実験結果に基づいて、研究チームは解析モデルを開発した。研究では、これはナノアンテナの超高速非線形動力学、シリコンにおける電子プラズマの生成と緩和を記述するものである。そのモデルによると、アンテナの散乱ダイアグラムにおける根本的変化は、非常に短時間、100 fsのオーダーで起こる。パルスが届く前、前方の粒子によって散乱されるエネルギー量は、後方のエネルギー量とほぼ同じである。しかし、短パルスに駆動されると、アンテナはほぼ完璧に単方向前方散乱にスイッチする。実験データによって支持される理論的予測は、この種のアンテナが約250 Gb/sの帯域を持つことを示唆している。それに対して従来のシリコンベースのエレクトロニクスは、帯域がわずか数十Gb/sに制限されるコンポーネントに依存している。