May, 25, 2016, Cambridge--テラヘルツ分光は、マイクロ波と赤外光の間の電磁照射帯を使用する有望なセキュリティ技術である。爆発物で使用される化学物質を含む幅広い材料の分光学的「フィンガープリント」を取り出すことができるからだ。
しかし従来のテラヘルツ分光は、重くて大きなスーツケースサイズの光源を必要とし、1個のサンプルの分析に15~30分かかるので、ほとんどのアプリケーションにとって、それは実用的ではない。
Optica発表論文によると、MITのエレクトロニクス研究所の研究チームは新しいテラヘルツ分光システムを提案した。これは、テラヘルツ光源に量子カスケードレーザ(QCL)を使用する。同システムは、わずか100ミリ秒(ms)で物質の分光シグネチャを取り出すことができる。
デバイスは、「周波数コム」として知られている、完全に均等間隔の周波数レンジで、テラヘルツ電磁波を放射するので非常に効率的である。
様々な物質が、テラヘルツ電磁波の様々な周波数を様々な程度に吸収し、そのそれぞれが固有のテラヘルツ吸収プロファイルを示す。しかし、これまでは、テラヘルツ分光は、個々の周波数ごとに物質の応答を計測する必要があり、このプロセスでは分光器を機械的に再調整しなければならない。このため、その方法は非常に時間がかかった。周波数コムの周波数は、均等間隔であるので、わずか数回の計測から物質の吸収フィンガープリントを数学的に再構築でき、機械的な調整は不要となる。
量子カスケードレーザ(QCL)の周波数間隔を一定にするためにMITの研究チームは、変わった形の利得媒体を使用する。その側面には整然とした対称的な刻み目があり、それが媒体の屈折率を変え、放射周波数の分布が均一性を取り戻す。
最初のプロトタイプ利得媒体は2014年に発表されたが、これに続いて新たな成果も発表されている。新しい利得媒体は、数100のGaAsとAlGaAsの交替層となっており、厚さは様々であるが精密に調整されている。
概念実証のために研究チームは、化学的サンプルではなく、GaAs水からできた光学デバイス、エタロンのスペクトルシグネチャを実験システムで計測した。そのスペクトル特性は前もって理論的に計算されており、明確な比較材料が提供できる。新システムの計測は、エタロンのテラヘルツ透過スペクトルにぴったりと一致し、同システムが化学物質の検出に有用であることを示している。
テラヘルツQCLは、チップスケールであるが、極低温に冷却する必要がある。したがって、不便で大きな冷却ハウジングが必要になる。研究グループは継続して、高温のQCL設計に取り組んでいる。新しい論文で研究チームは、テラヘルツ放射の非常に短いバーストだけを使ってターゲットから信頼できる分光シグネチャを取り出せることを実証した。これにより、テラヘルツ分光は低温でも実用的になる。
「われわれは10Wを消費していたが、今回のレーザはその時間の1%しか動作しないので、冷却制約は大幅に低減される。したがって、コンパクトサイズのクーリングを使うことができる」と論文の筆頭著者Yang Yangは説明している。
「ここではこのような非常に独創的な位相補正技術を使ったので、パルス光源でも、かなり高分解能のデータを取り出せることを実証した。これはテラヘルツ領域における化学センシングへの最初の大きな前進である」とプリンストン大学電気工学准教授、Gerard Wysocki氏はコメントしている。