March, 14, 2016, つくば--産業技術総合研究所(産総研)機能化学研究部門界面材料グループ 丁武孝研究員とナノ材料研究部門CNT機能制御グループ 都英次郎 主任研究員らは、優れた光発熱効果を示すナノコイル状の新素材を開発した。
この素材は、有機ナノチューブの表面に、ポリドーパミン(PDA)がコイル状に結合したもので、生体透過性の高い近赤外レーザを照射すると、高効率で発熱する。培養したがん細胞に少量添加し、レーザ照射すると、60 %以上の細胞が死滅した。近赤外レーザを利用した生体深部のがん治療用材料への応用が期待される。
電荷を持たない有機ナノチューブをドーパミン水溶液に添加してドーパミンを重合させても、コイル状のPDA(ナノコイル状PDA)は得られなかった。そのため、負電荷を持つ分子が少量混入した有機ナノチューブ(外径約190 nm、内径約70 nm、長さ800 nm~4 μm)を鋳型とした。ドーパミンは有機ナノチューブ表面に吸着して重合が進行し、PDA(太さ約100 nm)が有機ナノチューブにコイル状に巻き付いたナノコイル状PDAを作製。有機ナノチューブの外表面では負電荷がらせん状に局在化しており、そこにある割合で正電荷を帯びたドーパミンが吸着しながら重合が選択的に進行するためと考えられる。
ナノコイル状PDAとの特性比較のため、幅約7.5 nmのナノファイバ状のPDA(外径約17 nm、長さ3µmのナノチューブに内包されたもの)や、ナノ粒子状のPDA(粒径約400 nm)も同時に作製した。
光発熱性能を比較するためナノコイル状PDA、ナノファイバ状PDA、ナノ粒子状PDAをそれぞれ含む水分散液0.3 ml(PDA濃度:0.08 wt%)に、波長785 nmの近赤外レーザを10分間照射。照射後、ナノコイル状PDAの分散液では、ナノファイバ状やナノ粒子状に比べて、2倍以上の温度上昇が見られた。このナノコイル状PDAの顕著な温度上昇は、コイル形状のPDAがアンテナの役割をすることで、ファイバ状あるいは粒子状に比べてより効果的に近赤外光を吸収し、発熱するためと研究チームは考えている。さらに、ナノコイル状PDAを、培養したヒト子宮頸部がん細胞(HeLa)に添加し近赤外レーザを照射すると、約65 %の細胞が死滅した。ナノコイル状PDAが細胞表面に多数吸着し、細胞の近くが高温になることで、がん細胞が死滅したと考えられる。有機ナノチューブだけでは、細胞の死滅率が低いことから、ナノコイル状PDAが優れた光発熱効果を示すことがわかった。
今後、研究チームは、光発熱効果の効率向上や、各種のがん細胞に選択的に吸着させるための最適化とともに、正常細胞への安全性評価なども進める。また、今回発見したナノコイル状PDAの優れた光熱変換効果を活用し、太陽電池などの省エネルギー分野への応用も検討していく。