コヒレント特設ページはこちら

Science/Research 詳細

未利用の太陽光エネルギーを利用可能にする透明・不燃な光波長変換ゲル

February, 24, 2016, 東京/Leuven--東京工業大学大学院理工学研究科の村上陽一准教授らは、日本化薬と共同で、不燃性と不揮発性、光学透明性、非流動性をすべて兼ね備えた、光エネルギー変換に未利用な長波長光を利用可能な短波長光に変換する“光波長変換イオノゲル”の開発に世界で初めて成功した。このような波長変換を“光アップコンバージョン”という。
 この成果は「イオン液体を色素とともにゲル化する」という着想により実現したもので、太陽電池や光触媒など幅広いエネルギー変換効率の向上を行うための、応用に適した材料開発の成果。
 太陽光に適用できる光アップコンバージョン材料は従来、流体(有機溶媒)ベースが大半であり、応用に適さなかった。また、流動性抑制のためにポリマー埋め込みや溶媒のゲル化等を行った場合でも、可燃性や揮発性、光学的な濁りなどを伴い、応用実現に向けて問題が存在していた。
 今回の成果はこうした従来の問題点を一挙に解決したもので、材料面の課題が存在していた光アップコンバージョン技術の応用可能性が大きく広がることになる。
 社会的には太陽光エネルギーの役割はますます重要となっているが、太陽電池や光触媒、人工光合成などの光エネルギー変換では、各材料に固有の“しきい値波長”が存在し、それより長波長側の光はたとえ何ワットあっても変換に利用されずエネルギー損失となり、これが変換効率に根本的な制限を与えている。現状では使うことができていない長波長の光を、エネルギー変換に利用可能な“より短波長の光”に変換するのが、光アップコンバージョン技術である。
 ゲル化剤には最適と判断されたポリマ塩が用いられている。研究チームによると、イオン液体にゲル化剤と色素を添加する方法と条件について試行錯誤と最適化を重ねた結果、優れた均一性、ゲル強度、光学透明性を達成する試料作製法を見出し、波長変換機能をもつイオノゲルを開発した。
 今回の研究から、ゲル内部における色素分子の拡散係数が、ゲル化剤を添加しない流動性のある試料の場合から低下しないことが分かった。これは直感に反する一方、応用には有利な結果である。イオン液体をゲル化して流動性を抑制しても、アップコンバージョン効率に影響する色素分子の拡散性は全く犠牲にならないという特長が発見されたことになる。流動性のあるイオン液体試料と流動性が抑制されたイオノゲル試料との間で全ての励起光強度において同じアップコンバージョン効率を示すことが見出された。さらに、このゲルは温度によって可逆に“液体 ⇔ ゲル”と変化する物理ゲルであるため、応用においては複雑な形状をした容器への注入と、廃棄時の容器からの抜き取りが容易に行えるという長所も存在している。
 太陽光やランプ光のような、いわゆるレーザ光でない光を“非コヒーレント光”という。非コヒーレント光に適用できる光アップコンバージョン技術では、従来は流体(有機溶媒)ベースが大半であり、応用に適さない形態だった。また、流動性抑制のためにポリマー埋め込みや有機溶媒のゲル化を行った従来の光アップコンバージョン材料でも高い可燃性や揮発性があり、あるいは光学的に濁り、応用実現の障害となっていた。
 応用はこれらのどれかに一つに問題があっても困難となる。特に太陽電池や光触媒などで大規模に使用する場合、安全面での“不燃性”、安定性と環境負荷の少なさの面での“不揮発性”、および漏洩リスク防止の面での“非流動性”が強く求められていた。今回開発した波長変換材料は、これらの全てを同時に達成した、非コヒーレント光に適用可能な初めての光アップコンバージョン材料となる。
 光吸収波長と発光波長は使用する色素によって変えることができ、使用可能な色素は有機合成の自由度の高さにより事実上無数存在している。すなわち、今回の成果は、光アップコンバージョン技術の応用に向けて普遍的な解決を与える基盤的材料開発である。今後は各目的に対して最適な色素側の開発・探索が課題となる。
(詳細は、www.titech.ac.jp)