Science/Research 詳細

メーカーがインラインマシンビジョンシステムを導入し、木製フローリングの検査を実施

May, 13, 2025--オーストリアのショイヒャー・インドゥストリー社(Scheucher Holzindustrie)は、スマートカメラとニューラルネットワークを活用し、エンジニアードウッドフローリングの板材の層間接着剤塗布状況を評価している。

家族経営のショイヒャー・インドゥストリー社は、4世代にわたりプレフィニッシュドウッドフローリングを製造している。

2024年、現オーナーは、同社の最新フローリング製品の層間接着剤塗布状況を検査するため、ディープラーニングを活用したマシンビジョンシステムを生産ラインに導入した。
ショイヒャー社は2層および3層の無垢材フローリングを製造している。いずれの場合も、最上層は「耐摩耗層」、最下層は「コア層」で構成されている。最上層は板材が縦方向に配列され、コア層は板材の縦方向の幅に沿って配置されたストリップで構成されている。
「私たちは巨大な木材を製造しない。木材を2層または3層に分割する」と、同社の研究開発責任者であるクラウス・バウアー氏( Klaus Bauer)は語る。
最上層はオークなどの広葉樹で、中間層はトウヒやマツなどの針葉樹で作られていると同氏は付け加える。その上にステインカラーの表面コーティングが施されており、設置後には目に見えるようになる。
この3層構造の製品には、安定化のための下層も備わっている。これにより、板材を床下に接着する必要がなく、設置が容易になる。建設業界ではフローティング設置と呼ばれる方法で、板材はしっかりとはめ込まれる。

自動化された製造と検査
同社の最新フローリング材「MULTI flor.11」は、3.6mmの耐摩耗層を備えた3層構造で、設置後も複数回表面仕上げをやり直すことがでる。総厚は11mmで、標準的な3層構造よりも薄くなっている。この薄型構造は、ヨーロッパで普及している床暖房システムからの熱伝導性を高める。このフローリング材は、床下地に接着するように設計されている。
この製品は、毎秒1mの速度で移動するショイヒャー社の最新自動生産ラインで製造されている。このラインでは、木材の耐摩耗層とコア層の間に、高温で溶融した接着剤を自動塗布する。
接着剤が冷却されると、木材と接着する。同社はまた、接着剤の耐水性、耐熱性、耐寒性、耐薬品性を向上させるために硬化プロセスも採用している。「この接着剤は非常に高品質で、ほぼ半永久的に使用できる」とバウアー氏は述べている。
このレベルの品質を確保するには、接着剤が均一に塗布され、層間の完全な接着と均一な接合を実現することが非常に重要である。接着剤の塗布が不十分だと、製品の耐久性に影響を与える可能性がある。また、木材の均一な滑らかさが欠けていることも、接着剤の塗布に影響を与える要因となる。
理由が何であれ、接着剤の塗布状態を検査することは製造工程における重要なステップである。ラインは高速で稼働しているため、同社は手作業による検査プロセスを検討していなかった。「ラインの近くに人間がいるのはあまりにも危険だ」とバウアー氏は言う。そのため、ショイヒャー社のエンジニアは、接着剤を検査するためにインラインの自動ビジョンシステムを導入した。

マシンビジョンシステムの構成要素
ディープラーニングによる検査は、板材をセグメントに切断し、板をつなぎ合わせるためのクリックプロファイルが追加された後の製造工程の終盤で行われる。検査システムは、各床板について80ミリ秒で結果を返す。
ショイヒャー社は、独IDS Imaging Development Systems社製のNXT rioスマートカメラを2台導入した。各カメラには、ソニー製の1.6メガピクセルカラーセンサが搭載されており、GigE VisionおよびPower over Ethernet(PoE)に準拠している。
カメラはコンベアの両側に配置され、各板材の長辺にある床板接合部の画像を撮影できる。この接合部には、製造中に木材の層が圧着される際に細い接着剤の線が押し出されるため、接着剤の塗布跡が確認できる。
バウアー氏によると、このカメラを選んだのは、設置面積が小さく、エッジ処理能力が高いため、埃っぽい製造工程の近くに追加のコントローラーやPCを設置する必要がなくなるからである。「木材を製材すると、大量の木片や埃が出る」と同氏は述べる。
ショイヒャー社のチームは、3Dプリンターを使用して、カメラ用の黒いプラスチック製の筐体を設計・製作した。各筐体は、水平に走るアルミニウム製のバーにネジで固定されており、各カメラから板材の長辺を直角に撮影できる。
各カメラユニットは、イーサネットケーブルで制御盤内のPoEスイッチに接続されている。このスイッチは、生産ラインを操作するPLCへのデータ転送を容易にする。「2台のカメラはPoEで電源供給される。そのため、カメラ1台につき1本のイーサネットケーブルを設置するだけで済む。追加の電源、追加のデータケーブル、その他何も必要ない」とバウアー氏は説明する。
カメラとPLC間のデータ転送には、いくつかの目的がある。まず、最初の板材がラインを移動する際に、カメラは新しいサイズ、つまりバッチでデータをPLCに送信し、ソフトウエアモジュールが板材の長さを計算できるようにする。長さの情報はカメラに送り返され、カメラは動的に調整して、各木材の全長の画像を確実に撮影できるようにする。「特定の長さに合わせて、1秒あたりの撮影頻度を最適に調整する」とバウアー氏は言う。次に、カメラは検査結果をPLCに送信する。

検査アプリケーションにおける照明の役割
アプリケーション開発におけるもう1つの重要なステップは、照明の選定だった。同社は、独Falcon Illumination MV社のリング型UV LEDを使用して、フローリング板を照らし、接着剤の残留物を蛍光発光させ、可視化している。
「接着剤のサプライヤーに、紫外線に反応する添加剤を加えるよう依頼した」とバウアー氏は説明する。
接着剤は画像に青い線として表示される。線にずれがある場合は、接着剤の塗布に問題がある可能性がある。ずれが木材の節によるものか、非常に小さいものであれば、板材は検査に合格する可能性がる。しかし、線のない部分が長かったり、線に多数の切れ目があったりする場合は、板材は検査に合格しない。
不良品が発見されると、カメラはPLCに信号を送り、自動機械が木材板材の裏面に緑の線を追加する。
数分後、キーエンス製のカラーカメラを搭載した2台目のシステムが木材を1つ1つ検査し、緑色の線が入ったものは別の経路に送り、製造・梱包から除外する。
ショイヒャー社は画像や結果を永久に保存しない。カメラからのデジタル出力は必要に応じて新しいデータで上書きされる。
しかし、同社は損傷した床材を廃棄することはない。それらは工場の燃料や消費者に販売されるブリケットになる。「木材を1kgたりとも無駄にしないことが、当社にとって非常に重要だ」とバウアー氏は言う。

AI対応マシンビジョンアルゴリズムのトレーニング
ショイヒャー社は、IDS NXT rio Experience Kitを使用して検査システムを構築した。このキットには、ニューラルネットワークがあらかじめ構築されており、カメラ、電源ケーブル、データケーブル、三脚アダプター、レンズなど、必要なハードウエアがすべて含まれている。このパッケージには、クラウドベースのAI Vision Studio IDS lighthouseのライセンスも含まれている。これは、ディープラーニング、画像処理、アプリケーションプログラミングの知識がないユーザー向けに設計された開発環境である。
「これまで、当社のプロファイリングシステムでは、接着接合部の品質管理にルールベースでもインテリジェントでも、画像処理を一切行っていなかった。しかし、素人ながらも、AIを用いてこの要件を解決することが私たちの目標だった」とバウアー氏は説明する。
ショイヒャー社のエンジニアたちは、約60枚の画像を用いてモデルをトレーニングし、そのトレーニング結果をカメラに転送した。
よくあることだが、自動検査システムの実装における課題は、ニューラルネットワークをトレーニングするのに十分な数の「不良」サンプルを見つけることだった。接着剤の塗布が不適切な木材板の画像を十分に収集するのに約4週間かかった。
バウアー氏によると、チームは人工的に不良品を作成することも検討したが、サンプルが実際の製造工程で発生する欠陥を正確に反映していないのではないかと懸念し、その考えは断念した。

カメラとPLC間のデータ通信
2つ目の課題は、FPGAを内蔵したカメラがPLCと情報を交換できるようにするためのコードを作成することだった。同社は数日を費やし、独シーメンス社の産業機械制御ソフトウエア開発環境であるシーメンスTIAポータルとのデータ交換方法を探った。
「根本的な問題は、PLCモジュールがデータを1文字ずつ送信するため、特に認証トークンを含める際に有効なHTTPヘッダーを構成するのが困難だった。高レベルプログラミング環境では完全な文字列や適切にフォーマットされたHTTPリクエストを簡単に送信できるが、PLCモジュールでは各文字を手動で処理して送信する必要があった。そのため、スペース、改行、句読点など、APIが期待するとおりのフォーマットで完全なヘッダーを組み立てることが特に困難だった」とバウアー氏は説明する。
バウアー氏が比較的軽微だと表現するこれらの課題にもかかわらず、検査システムの開発と導入プロセス全体は簡単だった。「正直に言って、とてもシンプルだった」と同氏は言う。