All about Photonics

Home > Magazine > Articles

関連イベント

関連雑誌

Articles バックナンバー記事

複雑なパーツのレーザ切断:挑戦と解決策

ジーン・ピエール・バーグマン、バーク・プロエンニグス

接触、応力、圧力なしに部品を切断できる簡単構造のロボットシステム

 近年の自動車産業の大きな動向として、設計が複雑で機能が高く、機械的強度も大きい部品の必要性の増大が挙げられる。
 このような動向は、とくに2〜3mm以下の厚さをもつ金属板を使用して複雑な最終部品を成形する構造部品やシャーシ部品に現われている。多くの場合、成形工具の複雑さとコストを減らすために、メーカーはいくつかの作業を後段の生産工程に移している。そのため、部品のトリミングや穴あけなどの作業は組立工程のなかに持ち込まれ、後段の工程のなかで部品の機械的変形なしに高い精度で行うことが必要になる。
 冷間成形や打ち抜きなどの伝統的な生産工程は工具と部品との機械的接触を利用して加工する。これらの工程は、工具から力が作用して、部品には変形や損傷が生じる場合がある。また、このような工程を自動化するには、部品に作用する力を吸収するために、非常に高いロバスト性と安定性を備えたロボットシステムが必要になる。
 代替法の一つとしての液体ジェットにはいくつかの利点があり、信頼性のある技術的な解決策として利用できる。しかし、この方法には、切断した部品の乾燥が必要になる、切断速度に限界がある、部品のエッジの入念な洗浄が必要になる、などの大きな欠点がある。

簡単な構造のロボットシステム

 簡単な構造のロボットシステムによるレーザビーム切断は有望な代替法になる。この方法は高い柔軟性と高速の切断速度が得られ、部品との接触がなく、部品への機械的応力や圧力が加わることもない。また、レーザビームは部品に対する物理的接近性が高く、高いパワー強度を備えている。その結果、切口に隣接する熱影響ゾーンが非常に小さくなる。さらに、スポットサイズが非常に小さい(一般に0.3mm以下)ため、非常に小さなカーフ(切り溝)での切断が可能になる。表1は打ち抜き、ウォータジェット切断およびレーザ切断の概要を比較して示している。
 工具としてのレーザは、レーザ加工を非常に高い信頼性と追跡可能性をもつ工程に組込むことが成功の鍵になる。市場は低い投資コスト、妥当な運用および保守コストを強く要求している。また、高い柔軟性をもつ簡単で効果的な技術を採用して、新製品や異種製品の生産を迅速に立ち上げることも重要になる。レーザはこれらの必要条件が満足された場合にだけ成形金属薄板部品の切断に適した工具として認められる。
 レーザビームをロボットアーム内でガイドする方式は、全体システムの柔軟性が向上し、レーザビームが通常のガントリー5 軸システムでは近づくことが難しい部品の場所であっても到達することができる。また、この方式はより高い柔軟性が得られ、レーザ切断ラインのプログラミングも簡単に行うことができる。

レーザビームの伝達

 レーザビームとロボットシステムの組合せが成功するには、レーザビームの伝達方法が主要な挑戦課題となる。従来は固体レーザと光ファイバとを組合せ、ロボットを用いてファイバを必要な作業場所へ案内する方法が広く使われてきた。
 この方法の欠点は、レーザビームがファイバのなかを全反射して伝達されるため、その伝送はファイバの柔軟性とインテグリティの制約を受け、ファイバを強く曲げて曲率半径が小さくなると機械的破損が生じることだ。
 対照的に、一般にCO2 レーザビームはビーム品質が高く、焦点サイズが小さく、レーザスポットではガウス分布に近い強度分布になる。その結果、切口の幅が小さくなる(一般に0.1 〜 0.3mm)。また、CO2 レーザの設備および運用コストは固体レーザよりも低い。CO2 レーザの動作波長は10.6μmにあるため、レーザビームをガラスファイバで伝達することは不可能だが、反射鏡を使えばレーザビームの伝達が可能になる。この方法はレーザビームの光路のなかにあらかじめ位置決めをした反射鏡を用いる2D 用の3 軸システムにおいて成功した実績がある。
 初期のロボットCO2 レーザシステムの開発では、反射鏡内蔵の外部アームを使用して、光源からレーザヘッドまでのレーザビーム伝達が行われていた。
このアームはロボットハンド(6 軸)を用いて案内されるため、全体システムには自由な動きが制約される欠点であった。
 もう一つの開発は2000W の最大出力をもつレーザシステムであった。このシステムはレーザをロボット軸の一つに配置し、役割を定めた反射鏡を使用して、レーザビームをレーザヘッドへ伝達する。この方式はシステムが稼動すると、レーザ光源の全体が移動するため、250 〜 300kg もの負荷重量が発生する。このことはシステムの移動性、精度および動特性の大きな制約になるばかりでなく、高速のレーザ切断ラインの精度にもマイナスの影響を与える。また、レーザとシステムの寿命と保守も悪影響を受ける。

完全に統合された光路

 独イエナオプティックオートメーション社(Jenoptik Automation)は5000Wのレーザ出力が高い精度と動特性で得られる次世代のロボットCO2レーザシステムを発表した(表2)。このシステムはレーザがロボットから機械的に分離されている。ストーボリ社(Staebli)との共同開発により、レーザビームはロボット台座との光学的結合が可能となり、レーザビームの光路とレーザヘッドのチップとの完全な統合が実現された。
 詳しく述べると、レーザビームはそれぞれの軸の屈曲点にある精密に固定された反射鏡から、スタンドオフ制御が行われ切断ガス注入口をもつ切断ヘッドへ伝達される。
 この新しい概念にもとづく方式は、調整可能な反射鏡をロボットの関節に組み合せる設計によって、レーザビームの伝達が可能になっている。すべての反射鏡は水冷され、5000Wを超えるレーザ出力の操作が可能にしている。微粒子による反射鏡の損傷を防ぐために、レーザビームの案内はガス洗浄パイプシステムを用いて完全に保護されている(図1)。CO2レーザビームはロボットアームのなかに統合され、その反射損失はビーム光路の全体にわたり5% 以下に収められている。
 図2はイエナオプティクC‐BIMシステムと2.5W CO2 レーザを組合せた場合の代表的な切断速度を示している。厚みが3 〜 4mm 以下(自動車の構造材として使われる)の薄板の場合に、4m/分から14m/ 分までの切断速度でのトリミングと切断が可能になることが確認された。
 この設計によりロボットは完全な精度と動特性が確保され、重量も軽量化(約150kg)されて、金属部品の切断作業に必要となる精密な位置決め(±0.1mm)が可能になった。このように、イエナオプティック社は高出力の分野にも利用できるCO2レーザビーム用のファイバ伝達システムの開発に成功した。この方式は固体レーザシステムへの信頼性のある代替法として有望であり、ほぼ等価の応用特性をより低いコストで実現することができる。

産業用装置への統合

 イエナオプティック社は産業用装置としての要求を満足するために、ロボット、レーザおよび冷却装置を一つの装置に統合して小部屋の台座に取付けた。図3 は部品の搬入と移動を回転台上で行い、レーザ、フィルタおよびその他の装置を小部屋の裏側に配置した一つの解決策を示している。この小部屋は大きな再調整を必要としない単体構造のため、それ自体を容易に動かすことができる。加工する部品の標準サイズは1400×700×500mmまで、台座と小部屋のサイズはそれぞれ約5.20 ×2.20×2.30m(電力は600Wまで)と約5.90×2.20×2.30m(電力は600W以上)で設計されている。
 1 台のレーザと1 個のビームスプリッタまたは2 台のレーザを組合せた2 台のロボットからなる装置は、とくに大型の部品、複雑で接近が難しい部品、短いサイクル時間が必要になる用途の加工に適している。
 このような小型化のコンセプトにもとづく装置は柔軟性が高いため、異なる部品の難易度の高い繰返し加工が可能な切断システムを必要としている企業には最適の解決策になる。

結論

 オートメーションに関係する企業は、切断加工、とくに3D加工の自動化に向けた最近の需要の増大によって、新しい課題に直面している。そこでは、高い精度と柔軟性、高速の切断速度、目的に合ったレーザビーム案内のコンセプトを妥当な設備コストと小型の設計で実現することが重要になる。これらの要求を満足するために開発されたイエナオプティック社のレーザ装置は、優れた汎用性と応用性が確保されており、既存のレーザ切断システムに代替することができる。

図1 成形、鋳造または深絞り後の金属薄板をレーザ切断またはトリミングするためのVotan C-BIM(ビーム移動)システム。

表1 成形された金属薄板部品を切断する主要な方法の基本特性

表2 ロボットCO2 レーザシステムの特性

図2 独ロフィンシナール社によると(1)2.5kW CO2 レーザの標準的な切断速度。

図3 CO2 レーザシステム( 5kW まで対応可能)とレーザ加工(切断)ロボットを統合した小部屋システムのコンセプト。

Cutting記事一覧へ

TOPへ戻る

Copyright© 2011-2013 e.x.press Co., Ltd. All rights reserved.