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ハイパワー対応レーザ溶接モニタリングシステム
井上 憲人
住友重機械メカトロニクス(SHI)は、レーザ溶接モニタリングシステムの改善を行い、高出力対応バージョン発売した。これは、YAGレーザ、ファイバレーザの高出力化に対応したもので、新バージョンは出力5kWまでの加工ヘッドに装着し、溶接欠陥をリアルタイムでモニタできる。
レーザ溶接モニタリングシステムの標準構成は、センサヘッド、ケーブル、信号を取込むシグナルI/O ボックス、信号処理用パソコン(PC)とディスプレイで構成される。ソフトウエアは、コピー防止のために信号処理用PC にインストールして販売する。
センサヘッドは、2センサ構成になっており、ミラーとフィルタがそれぞれ二つあり、反射光とプラズマ光を分離してセンサに送る仕組みになっている。溶接を始めると、最初に溶接用のレーザの強い反射光が出るが、これは1番目のミラーで反射され、ノイズカットフィルタを通して反射光用のセンサに送られる。この最初のミラーは、1064nmの光を反射し、それ以外の短波長を透過する設計になっており、波長300〜950nmのプラズマ光は、2番目のミラーで反射され、同じようにフィルタでノイズカットして、プラズマ光用のセンサに入る(図1)。
反射光、プラズマ光は、センサのフォトダイオード(PD)で光‐電気( O/E )変換され、I/Oボックスでアナログ‐デジタル(AD)変換されて専用のPCで取得データの良否判定が行われる。
加工ヘッドへの取付けは、すでに実績のあるレーザヘッドにはアタッチメントが用意されているが、新規のヘッドについては、SHI の担当者がデザインすることになる。
高出力対応バージョン
現行のレーザ溶接モニタリングシステムは、対応できる最高出力が1kW以下だが、1kW の溶接ヘッドは比較的小さな部品を数秒で1 個溶接するレベルの出力。自動車業界に顧客の多いSHIは、車の車体、大きな構造物の溶接が可能な出力5kWレベルに対応するモニタリングシステムの要望を受けていたと言う。
高出力対応バージョンとするために、同社はデータのサンプリングレート、データ取得時間、フィルタの性能などの改善を行った。サンプリングレートは、現行バージョンでは最大20kHz だが、これを倍以上の50kHzとしている。
同モニタリング装置は、最大8チャネル(ch)の入力が可能な設計になっている。反射光、プラズマ光、ユーザによってはオプションでレーザパワーモニタをつける場合もある。2タイムシェアで使用する場合が多いため、3入力でも3×2=6chが必要となる。さらにユーザが独自の使い方をする場合も考慮して8ch 入力の設計になっている。
使えるチャネル数、データ取得時間は、サンプリングレートによって異なる。現行バージョンでは、20kHz では5chまで使用でき、2.5秒の溶接時間に対応している。新バージョンでは、20kHzでフルに8ch使用でき、最大溶接時間を30秒としている。サンプリングレートを最大の50kHzとした場合、最大6ch使用可能で、データ取得時間は12秒となっている。これは、溶接速度を8m/分として計算したもので、溶接長1.5mで溶接時間11.25秒を満足する設計にしている。
ソフトウエアは、大量データ取得が可能なように変更を加えており、新たに高出力対応として、H Ver.1.00とした。
モニタ原理と溶接欠陥
モニタシステムでは、光のパワーレベルを見ている。反射光とプラズマ光の両方を検出する方式としているのは、両方の光をモニタすることで材料の溶融度合い、加工の進行状態が分かるからだ。パルスを照射した瞬間、最初の数パルスでは反射光が強く出る。材料が溶け始めると反射光はなくなり、プラズマ光が強くなる。プラズマ光は、溶けた材料から発生する可視光を含む光だ。したがって、パルス照射しているにもかかわらず、反射光が強いままであれば、溶融が進んでいないことを意味している。例えば、デフォーカスしている場合、つまり溶接レーザのスポットが広がり、材料から外れていると、材料が溶けにくくなっており、反射光のレベルが高く、プラズマ光のレベルが小さい。これが、二つの光の基本的な振る舞いの違いだ(図2)。
では、この振る舞いの違いから、欠陥判定はできるか。溶接欠陥にはどのようなものがあり、その原因を特定できるか。住友重機械メカトロニクス第二営業部エンジニアリンググループの青木誠二氏は、「溶接欠陥は、光の挙動になって現れるが、信号の振る舞いから欠陥のすべての原因を特定することは難しい」と言う。
一般には、欠陥は外部欠陥と内部欠陥とに分けることができる。それぞれについて、欠陥発生の原因を、加工対象、環境、加工設備の三つの視点で捉えることができる。
外部欠陥は目視で判定する場合が多い。各社のラインには、欠陥のある外観の実例があり、それに基づいて判定できるとされている。表面からは分からない、内部欠陥の判定にこそこのモニタリングシステムが威力を発揮する。さらに、問題は、良否の判定だけにとどまらない。内部欠陥であろうと外部欠陥であろうと、不良品が多く出るようであれば原因の追究が必要になる。青木氏は、実見した不良原因について次のように話している。
「1日に何千個も部品を流しているユーザの場合、レーザパワーの出力ダウンによる溶接不良ももちろんあるが、レーザ溶接に先行する工程の変更で溶接不具合がでることがある。部品の洗浄液が古くなっている、あるいは洗浄液のメーカーを変えた、切削工程を持っているユーザであれば、切削の刃の劣化、洗浄後の部品を置くパレットに樹脂製を使用していたために、部品がパレットの壁面を削り、樹脂が部品に付着していたために起こった欠陥など、原因は多岐にわたる。」
これら多岐にわたる欠陥原因を光の振る舞いだけから判定することはとうていできない。したがって、モニタリングシステムを有効に使うためには、欠陥のデータベースを構築する、あるいはリファレンスを構築することが必要になる。導入当初は、サンプル加工から始める。SHIエンジニアリンググループ主管GL の翁永茂氏は、装置導入から稼働に至るまでのプロセスを次のように話している。
「良品の信号レベルの時間変化をリファレンスとして、それを判定基準にする。ユーザによって、レーザによって、材料によって正常なパターンは異なっている。まず、サンプル加工が必要だ。出やすい欠陥が分かっていれば、NGのワークを持ってきてそれを見てデータを蓄積する。導入当初は、従来の欠陥データと比較していくことになる。そこでうまくマッチングできれば、信頼できるモニタリング装置になる。」
では、このモニタリングシステムが実際にどのように使われているかを見ておこう。
リアルタイムモニタと規格化
現在のバージョンでは、10 種類までの判定基準を設定し、自動的に切り替えて呼び出せる設計になっている。量産マシーンの側から、加工ヘッドごとに判定基準の入ったファイルを読み込み、最大8ch の中から見るべきチャネルの指示が出る。ラインが切り替われば自動的に参照ファイルは切り替わる。
リファレンスの上限、下限の設定はユーザが行う。判定はリアルタイムで行われ、それにしたがってモニタリングシステムからはI/O ポートのチャネルのオン/オフの信号が出る(図3)。
「設定したレファランスの範囲を外れるとアラームが出る。信号が切れてワークを排出する場合もある。あるいは、レーザそのものを止めることもある。これらはユーザのシーケンスに依存するものだ。リファレンスの範囲の設定そのものがユーザのノウハウになる」(翁氏)。
各社のノウハウに基づいて、このモニタリング装置の判定を規格化しているユーザもあるという。判定基準をパスすることを良品の指標とし、顧客へのアピールに使用する。
ここまで見たのはリアルタイムモニタの例だ。分野は違うが、通信ネットワークでは、Deep Packet Inspection(DPI)を導入する動きが海外から始まり、日本にも広がりつつある。DPIにも2通りある。シグネチャを見てリアルタイム処理を行う場合と、すべてのパケットを一旦ハードディスクに取込み、後で解析処理を行う場合とだ。これと同様に、レーザ溶接モニタリングシステムのソフトウエアも、「インライン用」と「オフライン用」が用意されている。青木氏によると、現状ではオフライン解析用のソフトウエアはあまり活用されていないと言う。しかし、同氏は「このモニタリングシステムを導入することで製造ラインの環境を変えることもできる。データを蓄積して時系列で見ると問題点が分かる。前工程の変化が発見できることもある。これは、レーザ溶接をしている作業者には分からないところだ。アプリケーションは、もっと広がっていく」と見ている(図4)。
現在、レーザ溶接モニタリングシステムは、リアルタイムで溶接欠陥を検出できることが評価されて導入が進んでいる。翁氏は「ハイパワーバージョンが出たこともあるが、アプリケーションを広げ、普及に弾みをつけたい」と意欲的に話している。