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自動車バンパーのレーザ溶接
M・J・ソン、B・H・ユン、M・Y・イ、J・スー
シールドガス付きのリモートレーザ溶接は自動車部品の溶接を効率化できる。
高出力CO2 レーザとスキャナで構成されるリモート溶接装置( RWS)を使用すると、溶接のサイクル時間が従来のファイバ伝送レーザ/ロボットシステムよりも長くなる。CO2レーザのRWS は加工物までの焦点距離が800mmを超え、スキャナ系のミラーは毎分700m 以上の位置決め速度をもつため、この装置では溶接のサイクル時間の短縮が可能になる(図1)。また、RWSは加工物までの焦点距離を自動的に測定するセンサを備えているため、溶接パターンと位置決めデータの変更と検査を容易に行なうことができる。
しかしながら、RWSには一般にCO2レーザビームのパワーが3kW を超える場合に必要なシールドガスの供給設備がなく、シールドガスシステムを使うことも難しい。例えば、800Mpaクラスの高張力鋼板をRWS で溶接した最近の実験では、シールドガスを使用した場合と使用しない場合での溶接ビードの形状と侵入に影響する因子を観察した。また、自動化部品に対して張力を負荷するパラメータも見出された。
最適条件の研究
この研究ではSPFC 780 1.2mm 厚の鋼鈑の溶接が行なわれた。3 〜 4.8kW のレーザパワーを毎分2.4、2.8 および3.2m の速度で走査して、シールドガスが有る場合と無い場合のプラズマの影響を受ける溶融ゾーンの形状を観察した。ヘリウムのシールドガスの流速を毎分25リットルにした場合に、長さ22mmのステッチ溶接が形成された。ガスの供給は円形ジェットオリフィスを使用した(図2 )。
レーザパワーを強くすると、シールドガスが有る場合と無い場合での溶融ゾーンの違いが大きくなった。シールドガスが無い場合の溶接工程は不安定になり、より高いビームパワーでの侵入深度はかなり浅くなった。興味深いことは、完全な侵入が行なわれると、侵入速度が高いときほど溶接幅が広がることであった(図3 )。表はレーザパワーが4.8kW の場合のシールドガスの有無による溶接ビードの形状と溶接深度を示している。
RWS による加工はCO2 レーザの焦点距離が長いため、他の方式のレーザ装置に比べると、雰囲気の影響が強く現れた。そこで、観測したそれぞれの断面積を計算して、溶融形状のデータを精密に比較できるようにした(図4)。それぞれの断面をよく観察すると、溶接加工時の侵入深度と溶接幅には差が現れ、シールドガスは侵入深度と溶接幅に対して効果があり、溶接加工の安定化に役立つことが分かった。
総合的に考えると、例外はあるが、張力の最大値はシールドガスの流速が毎分2.8mのときに観測された。従って、重ね溶接のための張力負荷は侵入深度に対して大きな影響を与えないとの結論になった。一般に、溶接速度が遅いほど、より優れた侵入深度が得られた(図5)。より詳細なデータに基づいて、溶融幅ではなく、溶融面積での比較を行った。その結果、溶融負荷を利用するときの溶接条件は溶融幅にも拡張できることが分かった。
シールドガスがないと張力負荷の値はわずかに大きくなるが、4.8kW のレーザビームパワーを使う場合は、シールドガスの供給が必須になる。この場合、シールドガスを供給しないと溶接工程は不安定になり、侵入深度はあまりにも浅くなる(図6 )。
ここで述べたRWS 溶接加工は2006年から自動車バンパーの溶接に使われている(図7)。一般にバンパーは抵抗スポット溶接、CO2 アーク溶接または低温金属トランスファ溶接を使用して行なわれる。レーザ溶接を選択すると、サイクル時間とコストが減少し、張力負荷の値が改善される。われわれはRWSをバンパー以外の自動車部品へ使用する研究も計画している。
研究の成果
この研究の成果からはいくつかの結論が得られた。第1 に、4.8kW を超えるレーザビームパワーでのバンパー溶接ではシールドガスが必須になる。シールドガスを供給しないと、溶接工程は不安定になり、溶接ビードの不均一な侵入が発生する。鋼鈑( SPFC 7801.2mm 厚)は重ね溶接されるため、溶融形状は場所ごとに変化する。従って、より信頼性の高いデータを得るには、溶融ゾーン面積の計算が必要になる。
第2 に、張力負荷の値は中程度の溶接速度の方が高くなる場合が多い。そのため、侵入深度は重ね溶接の品質に対して影響を及ぼさない。シールドガスを供給すると、高いレーザビームパワーでの溶接工程は著しく不安定になった。従って、完全な侵入深度と安定な溶接品質を確保するには、シールドガスの供給が必要条件になる。
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