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レーザのボルボC70 への挑戦
ニクラス・パームクイスト、トア・サルミ
自動車部品の製造法を向上させるレーザ溶接とレーザ蝋付け(ブレージング)。
ボルボ・カーズ( Volvo Cars)が新しいC70 コンバーチブルの開発に着手した際の必要条件は、既存のモデルに比べて、重量、剛性、構造強度などの車体性能を大幅に改善することであった(図1)。この挑戦を可能にするために、開発プロジェクトでは数多くの新しいテーマがスタートしたが、その一つはレーザ溶接と蝋付けの使用であった。
C70 は旧式のモデルに使われてきた850プラットホームではなく、フォード・フォーカスとマツダ3(日本名:アクセラ)に共通で使われている既存のC1 /P1 プラットホームに基づいて開発された。新しいモデルのC70 は旧モデルのクーペとコンバーチブルを置き換える予定だったため、この場合の課題の一つは3分割折畳み方式のハードルーフの利用であった。製品の開発、設計および製造はボルボ・カーズとイタリアのピニンファリーナ社(Pininfarina)との合弁会社によって行なわれた。新しいC70 の製造場所として選ばれたスウェーデンのウッデバラ工場はC70 の旧モデルも製造していた。レーザ溶接と蝋付けがいくつかの用途に適用され、数多くの製品改良が行われた。
車体形状の改善
設計の改良と85%高張力鋼、10.7mのレーザ溶接および0.2m のレーザ蝋付けとの組合せによって、ねじり剛性が大幅に改善された。旧モデルのC70に比べると、ねじり剛性は250% の増加となり、車体構造の軽量化指数は2.7分の1に低下した(図2 )。
それぞれ異なる方法とレーザ技術を使用して、4 ヶ所の異なるのレーザ溶接と1 ヶ所のレーザ蝋付け(インライン使用では初めて)が行なわれた(表)。ドアの受け枠としてのシルの上部と下部のフランジをレーザ溶接することで、シル構造の基礎設計の改良が可能になった。シルの梁材の断面積がレーザ溶接によって増加したので、シルの上部と下部のフランジはいずれも大幅に軽量化された。このことが車体のねじり剛性の劇的な改善の基盤となった(図3 )。
シングルアクセス加工によるレーザ溶接はリアフェンダーと窓のアウターシルとの接合にも使われ、レーザ蝋付けはA ピラーカバーとフロントガラス横枠との接合に適用された。これらはレーザによるシングルアクセス加工の特徴を利用している(図4 )。
パーマノバのレーザ装置
新しいC70モデルの最初の生産台数は1 万7000 台/ 年という低い数字に設定されたが、それでも旧モデルの生産能力の7800 台に比べると増加した。このような生産量の場合、4分をわずかに上回るサイクルタイムが得られるため、車体の接合作業に必要な複数レーザによる加工方式の採用が可能になった。
スウェーデンのパーマノバ・レーザシステム社(Permanova Lasersystem)がレーザ装置の一括供給企業として選定された。パーマノバ社が供給するレーザステーションは四つのファイバ出力をもつ独トルンプ社(Trumph)の4kWランプ励起Nd:YAG レーザと5 本のファイバから構成されている。レーザには4 本のファイバが取り付けられ、1 本は迅速に交換するためのスペアファイバになる。4本のファイバは3台のABB ロボットに搭載されている四つの異なる工具に接続される。
生産ラインの両側に配置されたそれぞれ1 台のロボットが上部と下部のドアシル(枠の内側と外側)を溶接する。これらの2 台のロボットがそれぞれパーマノバ社の二重圧ホイールをもつ溶接工具を操作する。この工具は1600Nまでのクランプ力があり、ジョイント材料の上部を追跡し、そのエッジにレーザビームを位置決めして、エッジの重ね溶接を行なう継目トラッキングの特徴を備えている(図5)。同じ工具は下部のホイールを折畳み、「ノーマル」ホイールがエッジの重ね溶接をできるようにして、リアフェンダーと窓枠のエッジの重ね溶接も行なう。工具のヘッドはモータ付きの焦点合わせユニットを装備し、レーザビームの焦点位置を-10〜+20mmの範囲に調整することで、これらの厚みが大きく異なる2種類の溶接を可能にしている。
第3 のロボットは二つの工具を操作する。一つはパーマノバ社の個別に切り替えできる2 本の圧力フィンガーを備えた溶接工具からなり、これらのフィンガーはそれぞれの溶接部に十分近づくことができる。もう一つは独スキャンソニック社(Scansonic)のレーザ蝋付け工具から構成さている。パーマノバ社の溶接工具はA ピラーのカバープレートと、一方向アクセスの重ね溶接部をもつヒドロフォーム加工のAピラーとの溶接を行ない、スキャンソニック社の工具はCuSi3 フィラーワイヤを用いて、A ピラーカバーとフロントガラス横枠とのレーザ蝋付けを行なう。レーザ蝋付けした接合部は研磨をしなくても、レーザ蝋付け後の「そのまま」の状態で十分な美観を得ることができる(図6 )。
このレーザは249 秒のサイクルタイム(許容時間は250秒)の82%、つまり204 秒というすばらしい「ビーム稼働時間」が得られる。これは継目が完成したときに、レーザ光が一つの工具からもう一つの工具へ切り替えられ、もう一つのロボットの工具がスタート位置に付くようにした工程を最適化したことによって実現されている。このようにして、ロットの移動に必要なすべての時間は最短化されて、生産のサイクルタイムのなかに収められた。
システムインテグレータの挑戦
パーマノバ社のプロジェクトリーダを務めるラース‐エリック・ジャンソン氏は「自動車メーカーの視点からみると、この挑戦はリスクの可能性がある新しい技術の研究や応用ではなく、自動車本体の設計におけるもので、新しい特徴と機能をもつ自動車の開発と製造を可能にすることだ」と語っている。ボルボ・カーズのC70 プロジェクトにおいて、ボルボ/ピニンファリーナ、両社の担当者は、次のような数多くの問題に直面した。
・3分割折畳み方式のハードルーフを使用する(旧モデルのクーペとコンバーチブルが置き換えられる)
・旧モデルのボルボ850 プラットホームの代わりに、フォード/マツダのC1 / P1プラットホームを使用する
・自動車の生産ラインにインライン方式のレーザ蝋付け加工を導入する
・厚い材料のレーザ溶接をインライン方式で行なう。この場合は溶接部の強度と完全性が自動車の全体剛性と強度の鍵になる
・2 種類のレーザ加工を車体の四つの異なる場所にインライン方式で行なう(それまではレーザ溶接とレーザ切断の組合せがC70 の旧モデルで使われていた)
さらにジャンソン氏は、「言うまでもなく、レーザ加工(溶接と蝋付け)はボルボにとって重要な技術要素であった。これらのレーザ加工を可能にし、レーザ装置に対するプロジェクト全体のリスクを最小にするために、ピニンファリーナとボルボは今回もパーマノバを一括供給企業として選定した。その結果、ボルボには次のような重要な利点がもたらされた」と語る。
・技術的および商業的に証明された実績のあるレーザによるプロジェクト管理
・革新的なレーザ工程と工具の開発能力
・全体システム、レーザ加工および生産ライン交信の操作に必要な専門システムインテグレータの知識と経験
・現地での短い対応時間による品質サービスと保守
インテグレータにとってはシステムと工具の柔軟な設計およびプロジェクト管理が重要な鍵になることが明らかになった。例えば、最終段階で自動車の設計が変更され、レーザ加工ステーションには新しい工具を備えた第3 のロボットの追加が必要になった。
また、新しいC70 モデルの生産を立ち上げ、それをスタートしながら旧モデルの生産を継続することも課題であり、さまざまなテストを正規の製造時間外の週末に行なわなければならなかった。さらに、既設の旧式レーザ加工ステーションの改良(新しいステーションハウジング、より高出力の新しいレーザの据付け、より汎用性のある工具の導入など)も行なわれ、より柔軟なプロジェクト管理と経験にもとづく状況の全体把握が必要であった。
パーマノバ社の立場からみると、この特別プロジェクトは二つの新しいレーザ工具の商用化を意味していた。プログラマブル焦点合わせユニットのMFU(図7)と、折畳み可能な2方向圧力フィンガー(図8 )である。公称の焦点位置は固定された車輪圧によって決まるが、MFU は異なる接合部の異なる材料の厚みに対応するように焦点位置を再プログラミングすることを可能にする。このようなシステムを開発することで、自動車の両側からのレーザ加工が1台の工具で可能になり、スペア工具の在庫も減らすことができた。