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エアバッグ部品のレーザ溶接

アンドリュー・ドッド

品質とスループットを最適化できるスーパーモジュレーションモードのレーザシステム。

 部品の生産に使われる溶接工程の開発と最適化には多数の段階がある。まず材料の選択と溶接の接合部の設計が行われ、次に溶接方式と溶接スケールが選択され、最後に生産システムに使用する固定具の最適化、材料の運搬法、溶接機の制御法などが決定される。
 装置からの多数の要求条件は相互に食い違う。このことは、例えば溶接部の接合ずれと高速度低コストの工作器具との関係、高速の溶接速度と経済的な低出力レーザとの関係などに見られる。それぞれの溶接プロジェクトではこれらの問題を含めた数多くの要件を考慮しなければならない。今日の新製品開発および平行して行われる加工法開発の速いペースのなかでは、実現可能な範囲で最高の柔軟性と加工能力を確保する必要がある。
 ここで概要を述べる溶接装置開発は、自動車、医療、宇宙航空用を含めたさまざまな産業用の精密型打ち部品を製造するオーバーグ・インダストリーズ社(Oberg Industries)の事例を取り上げている。オーバーグ社は加工部品の非常に高い仕上げ精度に定評があり、加工法と加工機械のノウハウを生かして、経済的な溶接装置を開発した。この開発は新しい特徴をもつ変調速度が非常に速いスーパーモジュレーション(SuperModulation)レーザ装置によって可能になった。

溶接の問題

 ある自動車メーカーが外部の部品メーカーから供給される部品の溶接の品質に問題を抱えていた。その一つがエアバッグ部品の溶接であった。部品メーカーは部品に必要な信頼性が得られない伝統的なタングステン不活性ガス(TIG)溶接工法を使用していた。
 オーバーグ社は型押しの経験を生かして部品の精度と品質の改善を支援したが、ユーザの自動車メーカーからは完全性と信頼性を満たす溶接管の供給を要請された。これがきっかけでオーバーグ社はレーザによる可能性の検討を始めた。オーバーグ社はペンシルベニア州ピッツバーグに近いシャルバール工場で、低出力Nd:YAGパルスレーザを用いた溶接を実験した。同社の顧客は溶接された部品の外観と強度には満足したが、加工速度があまりにも遅かった。
 オーバーグ社はGSIグループ社のレーザ事業部と接触して、溶接速度の改善が可能かどうかをGSI社の応用研究所で検討して欲しいと要請した。その際、オーバーグ社は50mm/sの溶接速度と顧客の要求を満足できる溶接強度が得られるレーザを要望した。
 問題は1.2mmの公称厚さをもつ1008炭素鋼の穴あけ網目管のデブリであった。穴あけ用の平坦な金属片は最初に約1.0mmの隙間をもつ管に成形され、溶接工程の前に継目のアラインメントと位置決めが行われる。品質の判定基準には表面と底部の外観の美しさも含まれるため、溶接は管に力が加わると生じる過大な膨らみを避けなければならない。この試験は製造時に周期的に行われる。
 最初の仕事は部品の試作に使うレーザ源と溶接法の選択であった。GSI社とオーバーグ社による議論の結果、1kWの連続波(CW)Nd:YAGレーザであれば50mm/sの溶接速度が容易に得られるが、経済性に問題があることが分かった。そこで、予算に収まる500Wのレーザを採用することになった。
 試作部品は2006年7月にCWモードとスーパーモジュレーションモードの両方の出力をもつJK501SM Nd:YAGレーザによって溶接された。この溶接は穴あけされていない硬質管の部品で行われた。溶接速度とレーザパラメータを変えた溶接が行われ、溶接深さが異なる溶接部の強度が試験された。
 正弦波と矩形波の波形をもつレーザのスーパーモジュレーション出力からは、レーザ定格出力の2倍に相当する高いピーク値の出力が得られ、レーザの定格平均出力は維持される。その結果、溶接速度は40%の増加となり、熱入力はCWだけの出力の場合に比べると、はるかに低くなる。これらの利点は溶接時の溶融池のすぐ上にあるスートから散乱するレーザエネルギーの減少から生まれる。CW出力の場合は溶接開始の数ミリ秒後から高い一定レベルの量のスートが溶融池のすぐ上に生成される。このスートにはビームの焦点からの散乱と発散を引き起こすサイズの粒子が含まれるため、溶接幅が大きくなり、溶接深さが浅くなる。
 スーパーモジュレーションの周期性のピーク出力が大きい正弦波または矩形波の波形を使用すると、レーザエネルギーはスートがかなり大きな散乱量になる前の数ミリ秒の時間内に溶接部に到達する。スートは変調されたエネルギーサイクルが低いときにゼロに近いレベルへと急速に減少するため、この状態のときに次に溶接サイクルが始まる。この効果はレーザの出力レベルやビーム品質とは無関係に得られる。CW、正弦波および矩形波で溶接した断面からは、溶接深さが明らかに改善されていることが分かった。
 これらの結果にもとづいて、オーバーグ社は最も平滑な溶接部が得られる500Wのレーザシステムを選択した。このシステムは焦点距離100mmの集光レンズから300μmのスポットサイズが得られ、50mm/sの溶接速度と100%の溶接深さを確保できる。装置の先頭部の隙間は簡単な締め具によって完全にふさがれ、側面からはアルゴンの遮蔽ジェットガスが供給される。
 2006年を通して溶接試験と生産に必要な部品開発が行われ、製造装置として利用することが可能になった。レーザ加工に支障がないように、すべての部品は手作業で固定具に取り付けられ、締め具で一体化された。

問題の解決

 レーザ装置が到着すると、オーバーグ社はレーザ溶接テストを開始したが、この装置には、試作時の溶接から自動生産による溶接へ移行したことにともなう問題がいくつかあることが分かった。突合せ溶接の継目には部品の位置とばねの力の変化による隙間が生じた。生産システムの固定具のための遮蔽ガス供給法の設計は試験されなかったため、溶接した部品は顧客の機械試験に合格しなかった。適切な溶接強度を得ようとすると、溶接速度は23mm/sへと減少した。
 検討の結果、いくつかの固定部品に観察された隙間と溶接位置の変動が、十分に中心合せをしなかったレーザ溶接の隙間と溶接部に対して、エネルギー損失をもたらすことが分かった。この隙間に関係する問題は、集光レンズの焦点距離を長くして焦点スポットサイズを大きくすることで解決された。
 溶接速度を50mm/sのレベルに戻して装置仕様を満たすために、レーザパラメータは方形波のスーパーモジュレーションモードへ変更された。その結果、焦点スポットサイズを20%大きくすることで、溶接速度の向上が可能になった。十分な強度と延性をもつ溶接を実現するには、アルゴン遮蔽ガスの供給法を溶接固定具に対して最適化して、溶接中と冷却時の溶接部の酸素濃度を非常に低い状態に維持する必要があった。
 最後に決定された溶接パラメータは、50mm/s の溶接速度、300Hzの方形波スーパーモジュレーションモード、900Wのピーク出力およびアルゴン遮蔽による360μmの焦点スポットサイズであった。500Wの平均出力でのスーパーモジュレーションモードを採用することで、この装置はプロジェクトの試行段階では難しいと予想された溶接継目の変動を補償できるようになり、同時に、この低コスト中出力Nd:レーザの技術によって、部品と工程の操作も可能になった。
 この方式の完成によって、必要な強度をもつ部品を予想よりも低い出力で溶接できるようになった。スーパーモジュレーションモードの500W CWレーザの使用によって、オーバーグ社は必要な溶接速度を手頃なコストで確保できたばかりでなく、すべての加工公差を考慮した生産において、溶接の速度と品質を維持できる加工能力を得ることができた。この方法を採用することで、同社は10万ドルのマシンコストを節約できたと推定される。
 オーバーグ社はプロジェクトの結果に満足している。このプロジェクトによって、オーバーグ社は新事業の開拓が可能になり、また、まったく新しい生産工程を既存および将来の顧客に提案できるようになった。

図1 この完成部品はスーパーモジュレーションモードのGSI JK501SM を使用して、50mm/s の速度でレーザ溶接された。

図2 この穴なしで作製された最初の試験サンプルを使用して、GSI とオーバーグは溶接法の開発とレーザの選定を行った。この写真は溶接前の状態を示している。

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