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機械加工市場への進出を狙うCO2 2次元加工機

高出力炭酸ガス(CO2)2 次元(2D)加工機が、切断面粗さを劇的に改善し、レーザ加工分野の拡大を推し進めている。

 三菱電機は、昨年10月にCO2 2Dレーザ加工機「NXシリーズ」、今年5月に「HVシリーズ」、さらに6月には6kWの発振器を搭載したNXシリーズを発売した(図1)。改善されたブリリアントカット機能を搭載し、レーザ加工の市場を機械加工分野に拡大することを目標としている。
 三菱電機名古屋製作所、レーザシステム部加工技術課長、村井融氏はブリリアントカット技術の狙いを「レーザ用途の拡大」と語っている。拡大の方向は、機械加工領域への進出だ。同社は、6kW機NXシリーズの特長として「切断面品質の向上」を挙げている。
 「新型CO2レーザ発振器は、新制御方式電源の搭載によるパルス発振波形の改善でレーザ光のビームモードが安定化し、切断面粗さRz15μmを実現。機械加工の普通仕上げの表面粗さ(Rz25μm)よりも滑らかで、従来必要だった仕上げ加工をなくすことができる」(図2)。
 この加工品質を実現する技術を三菱電機は「ブリリアントカット」と命名している。文字通りの意味は、「光り輝く切断面」だが、同社独自のステンレスの無酸化切断方法を指している。こうした品質重視の加工技術は、三菱電機のCO2 2D加工機が大きなシェア(30〜 40 %)をとっている国内市場の要求に応えたものと見ることもできる。村井氏によると同社の国内市場のユーザではジョブショップが多い。これらのユーザは、「三菱の加工機を採用することで競合に対する差別化、競争力を強化しようとしている」という。さらに、三菱のブリリアントカット技術の性能を必要とする市場がある。
 「製品機能として、高品質の面粗さが必要とされている市場がある。例えば、食品機械、半導体製造装置では、錆びや埃を嫌うという理由でステンレスの部材が多く使われる。しかも、1 〜2mm の薄板ではなく、10 〜 12mm の厚板だ。こういう市場もブリリアントカットのターゲットになる。ここは、まさに機械加工からレーザ加工への置き換えだ」(村井氏)。
 機械加工の完全な置き換えは難しいが、ブリリアントカット技術によって「後加工の簡略化、コストの低減などは可能だ」とするのが、三菱が現在達成しているポイントになる。

独自の発振器構造

 三菱電機は、3軸直交形という独自の発振器構造を採用している。レーザガスを封じ切り、長いガラス管の中に高速でガスを流す構造が3軸直交形だ。この方式の特徴として村井氏は「矩形波、パルス性能に優れている」点を挙げている。新しいCF-R(発振器)シリーズは、「主に電源の改善により、さらに矩形の性能向上を図り、ブリリアントカットの品質を高めた」(同氏)。
 ガスを封じ切る構造は、品質向上だけでなく、ランニングコストにも影響を及ぼす。レーザガスにかかる費用、消費電力など、「競合他社の方式に比べると40%程度のコスト削減が可能になっている」と村井氏は見ている。
 特に消費電力の差は、アイドル時のビームオフができるかどうかにかかっている。レーザ加工では、加工プロセスの中で頻繁にビームオン/オフを繰り返す。村井氏によると「ビームオン率が、稼働率が高い場合でも40〜50%程度。その他では、早送り、加工品の取出し、段取り時間が占める。トータルの稼働率で考えると、アイドル時の消費電力が無視できない。3軸直交は、瞬時にビームオフができる。」
 この差が、トータルの消費電力の差になっている。
 3軸直交形の発振器は、加工品質、オペレーションコストで優位性があるということだが、レーザ加工機の性能を決めるのは発振器だけではない。

高速、高精度加工の実現

 三菱電機は、世界最高レベルの高出力6kW機を5月に発表した。この高出力化により切断加工速度は、「ステンレス(SUS304、板厚1mm)においては、従来比1.5倍となる毎分30m」が実現されている。とは言え、CF-Rシリーズのパフォーマンスを出力だけで表現することは適切ではない。同シリーズに関して、村井氏は次のようにコメントしている。
 「発振器というのは、パワーだけで比較される場合が多いが、実際はそうではない。ビーム品質、長期の安定性などは、発振器の能力として重要だ。これらを含めて総合的な発振器能力ということでCFシリーズを発表した。」
 無酸素切断の場合、窒素ガスを噴出させながら切断するが、ブリリアントカットの実現には「ガスの流れの最適化技術」が採用されている。その他、ビームのエネルギー分布の形状、空間的な形状も速度、品質に影響する。
 ビーム品質を時間軸上で見ると、出力の安定性も重要になる。三菱の発振器は、高速パワーセンサを搭載しており、発振器の内部で出力をリアルタイムモニタしている。この機能は、アルミや銅など、ビームを反射しやすい材料の加工で特に威力を発揮する。センサにより、反射した光をフィードバックすることによって常に一定の出力を材料に照射することができる。出力安定度±1%以下を実現している。
 高精度/高速加工実現には、Z軸の制御が必要になる。2D加工機は、原理的にはXYの制御があればよいが、「実際には厚み方向の制御が必要だ」と村井氏は指摘する。「Z軸に、リニアサブモータを採用することによって時間短縮ができる。これはヘッド自身の上下動の制御。これにより高速性能が向上する。材料の変形に対して、Z軸をリニアモータ駆動で業界最高の加速度、4Gで倣い制御する。小穴の切断速度が、1mmのステンレス薄板で従来シリーズ比、約2.5倍の20m/分となり、大幅な加工時間短縮を実現した。」
 レーザ加工では、通常は○穴を切って、次に外周に行くが、加工ヘッドは退避動作をする。「従来シリーズでは、その退避動作、もしくはその反対の倣い動作が長い時間を占めていたが、これを見直して、この部分を短縮するためにZ 軸リニアを採用した。1 カ所加工するとすぐに退避して、退避時間を非常に短くした。従来比では、加速度は4倍程度向上している。」

高出力機に予想を超える需要

 発振器CF-Rが搭載された加工機が、HVシリーズ、NXシリーズだ。
 村井氏によると、最近のユーザの傾向としてストッカーシステムと組合せて購入を検討する例が増加している。加工対象となる材料を搭載した状態から1枚ずつ吸着して加工機に持ってくるタイプと、パレットに予め材料を置いて、そのパレットを搬入しては戻していくタイプとがある。このシステムでは、一晩かけて10種類のパレットを加工することができ、こうすることで稼働率向上が実現する。
 「仕事量が多いユーザは、オペレータが退社する前にワークをセットして、無人で夜動かし、翌朝には仕上がっているという使い方をしている。このシステムは10年以上前からあったが、以前はこうした要求は少なかった。ここ数年、他品種少量、中量など、加工対象のロット数が増加する傾向にある。」
 無人加工に加えて、三菱が予想外としているのが最高機種、6kWに対する需要だ。
 「NXシリーズの出荷は、これから本格化するが、このシリーズには6kWの発振器が搭載できる。6kWは、1次側の設備、消費電力、価格も高いなどの理由で、4kWの方が多いのではと見ていたが、蓋を開けてみると6:4、7:3の比率で6kWが多い。」
 これまでは、ステンレスの加工対象は12mm程度までが実用板厚だったが、6kW機は最大25mmまで加工可能となっている。板厚が大きくなると、加工する材料の寸法も大きいものを要求する。三菱は、4×2mのテーブルを持つ加工機をラインアップに追加する予定だと言う。
 三菱電機は、高出力化、高速化、ブリリアントカット技術によって、レーザ加工分野の拡大を推し進めている。

図1 新型発振器CF-R を搭載した加工機NX シリーズ。切断加工速度向上、切断加工板厚向上、ランニングコストの大幅削減などを実現。

図2 従来方法(上)とブリリアントカット(下)の比較。新制御方式電源の搭載によるパルス発振波形の改善でレーザ光のビームモードが安定化し、切断面粗さRz15μ m を実現。機械加工の普通仕上げの表面粗さ(Rz25μ m)よりも滑らかで、従来必要だった仕上げ加工が不要となった。

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