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進化した抵抗トリミング
ボ・グ、ポール・チェイス、ゲーリー・メザック、ブルース・クーチ、ジョー・レント、ユン・チュー
グリーンレーザシステムを使用すると、高精密で小型幾何学配置のTFCR のトリミングが可能になる。
レーザトリミングは高精度と高性能を必要とするマイクロエレクトロニクスデバイスの製造に不可欠な手段となった。薄膜チップ抵抗(TFCR)のレーザトリミングは、TFCRの最終工程の性能を公称値の±0.02%以内に収めることができる。しかし、携帯可能な家庭用エレクトロニクス製品が進歩し続けていることによって、現在のレーザトリミング技術は更に高い性能と小さな実装サイズの実現が要求されている。
今やメーカーは、実装サイズの縮小ばかりでなく、抵抗利得の調整機能、最終トリミングの精度および再現性の改善を必要としている。これらの目標を標準TFCR製造ラインが要求する高いスループットに合せて同時に実現するために、緑色(532nm)を発生する新しいレーザシステムが開発された。従来の赤外線(IR)レーザを使うシステムとは異なり、緑色の波長はレーザのスポットサイズが大幅に小さくなるため、得られるカーフ(切口)幅と熱影響が減少する。この方法を独自のサーペンタイン(蛇行状の)切断手順と組合わせることで、抵抗利得の調整が大幅に容易になり、最終工程の抵抗の精度と再現性が改善されるようになった。
薄膜技術
マイクロエレクトロニクス回路の受動部品や能動部品のレーザトリミングは数十年を経て成熟し、現場で十分に実証された技術になっている。歴史的にみると、変動値をもつ多数の部品が回路に使用され、電子回路の動作点の多くはこれらの部品の値を変えることで調整されている。これには非常に高価で、信頼性が不足しやすく、自動化と小型化が難しい可変抵抗器の使用も含まれている。薄膜ははるかに優れた代替技術なので、業界では幅広く採用されてきた。加工直後の薄膜抵抗の公差分布は公称値の5〜10%の範囲になる場合が多い。この公差の範囲で十分に使用できる用途もあるが、携帯式の消費者エレクトロニクス製品の多くにとっては不十分だ。ほとんどの用途ではさらに狭い公差が要求される。図1は薄膜抵抗をレーザトリミングする前と後の公差の代表的な値を示している。図から分かるように、薄膜抵抗の測定値の公称値に対する広がりはレーザトリミングを行うことで大幅に減少する。
薄膜のトリミングに対してレーザを使用することの成否は、レーザと材料との間の相互作用の管理と最適化に直接依存している。化学蒸着やスパッタリング工程を使用して導電性薄膜をガラス、セラミック、シリコンなどの支持基板上に蒸着すると、10〜100μmの膜厚が得られる。受動素子のパターンは標準のフォトマスクイメージングと化学エッチングの工程で形成され、通常は100Ω/平方から1000Ω/平方の範囲の薄膜抵抗値が材料に依存して得られる。薄膜材料はニクロム、シクロムおよび窒化タンタルが広く使われている。シート抵抗の値は材料のシート抵抗値とシート幅との積に対する長さの比に等しい。したがって、実際の抵抗利得は薄膜材料の幾何学的形状と特性に依存する。
レーザトリミング技術
レーザトリミング工程によって得られる抵抗利得は抵抗薄膜の形状を変えるだけで変化する。したがって、これは抵抗薄膜の特定の場所を特殊な方法で除去する、あるいは変更することによって実現できる。レーザトリミングは有効抵抗長の延長または有効抵抗幅の縮小になるため、抵抗の抵抗利得は処理後の値からの増加だけになる。
図2は標準のレーザトリミング装置を図解している。レーザトリミングには三つの機構が含まれている。第1の機構は高出力レーザビームを用いて材料の蒸発だけを行う。材料は窒化タンタルとポリシリコンを使う場合が多い。第2の機構は二酸化ケイ素雰囲気中での抵抗材料の酸化を行う。これはシクロムとニクロムの薄膜の場合に当てはまる。最後の機構は非常に薄い不連続薄膜におけるいわゆるアイランド構造の改質を行う。この導電機構は量子電子トンネル効果にもとづいている。
伝統的にみて、レーザトリミングはNd ドープ結晶に基づく産業用レーザの1μmの波長で広く行われてきた。このレーザ波長ではパワー、繰返し速度、ビーム品質および材料吸収の適切な特性が得られる。しかし、最近になって、トリミングのサイズが小さくなり、許容範囲が狭くなったことによって、従来のNdドープ技術でのトリミングでは、いくつかの新しい材料に対して限界が生まれた。そこで、レーザと材料との相互作用の問題をよりうまく解決できる代替技術が開発された。また、1μmの波長ではトリミング品質とトリミング後の安定性が熱影響と光学的プロキシミティ効果によって損なわれることも分かった。レーザビームによって発生する熱影響層(HAZ)は、そのほとんどが後工程の抵抗ドリフトとTCRとに関係することも分かった。
発生するビームは波長が短いほど小さくなり、カーフも小さくなるため、より小さな形状のトリミングが可能になる。ほとんどの材料の吸収は波長が1μmよりも短いほど強くなり、熱影響は少なくなる。したがって、HAZは波長が短いほど小さくなる。ことことによって、レーザトリミングのカーフ周りのHAZによって生じるTCRドリフトの発生は少なくなる。
高精度のトリミングを実現するには、レーザ光源に加えて、ビームの位置決め精度も重要になる。このことは、特にトリミングする素子のサイズが非常に小さい場合に当てはまる。そこで、より小さなスポットサイズを補完するための高精密ガルバノメータを用いたビーム位置決め装置が開発された(1)。この装置は実際のビーム位置と正規のビーム位置の差を検出してマッピングを行う。このような方法で全体のガルバノメータの場がマッピングされ、数学モデルに当てはめることによって、ビームの変位が正確に検出される。
応用の検討
2種類の製品試料を使って、それぞれ2種類の評価試験を行った。第1の試験は同一条件下(切断数、切断長、切断間隔など)での各製品の最大抵抗ポテンシャルの決定であり、第2の試験では各製品の抵抗利得の中央値になる公称値と0.08%以下の標準偏差をもつ±0.1%の公差が得られるようにトリミングを行った。この試験では13μmのスポットサイズと10μmのカーフ幅が得られる3Wのグリーンレーザ(532nm)からなるW778Gレーザシステムを使用した。
抵抗利得の検討 それぞれの材料における抵抗利得の可能性を調べるために、異なるトリミング間隔(ピッチ)の場合の一連のサーペンタイントリミングを同一の抵抗量に対して行った。トリミング領域は最初と最後のサーペンタイントリミング位置、蛇行に対する微細トリミング位置およびトリミング長が等しくなるようにした。トリミング数はピッチに応じて変更し、最後のトリミング位置がすべての試料に対してできるだけ一致するようにした。Qレートとバイトサイズは同一の状態に維持し、パワーだけを調整して、明瞭で一定のカーフが得られるようにした。それぞれの試験での抵抗の公称値はトリミングしたすべての抵抗が最大の長さを確保できるように選択した。それぞれの材料に対して25、30、35、40、50、65μmの切断間隔での6回の試験を行った。図3はピッチが25μmの場合のトリミングパターンを示している。
トリミング前の値、トリミング後の値およびパターンのトリミングに要した時間のデータが記録された。これらのデータおよび抵抗の既知の幾何学配置(1.25平方)からは、平方当たりのΩ値、抵抗値および最終の平方数を計算することができる。表1と2は2種類の抵抗材料の各試験グループと使用した切断数を示している。表3はそれぞれの試験に使用したトリミングパラメータを示している。
これらのデータからはピッチから抵抗利得を、抵抗利得からピッチを、さらには、与えられたピッチに対して必要な切断数を推定する予測曲線を得ることができる。図4、5および6はデータから求めた関数を示している。
図4および5は1500Ωと40Ωに対する平均抵抗利得とピッチとの関係を示している。2種類の材料は非常に類似した傾向をもつことが分かる。この動向解析からの関数を用いて予測した抵抗利得の計算とプロットを行い、予測した抵抗利得と実際の抵抗利得との関係を明らかにした。動向関数は与えられたピッチに対する最大抵抗利得の推定に使うことができる。二つの動向関数がいずれも十分に平均化されていると仮定すると、これらを組合せることで、共通の動向関数と信号関数を得ることができる。図6は1500Ωと40Ωの抵抗利得曲線をこれらの平均抵抗利得曲線およびその導関数とともに示している。次に、予測した抵抗利得と組合せた平均値との比較を行った。
抵抗利得に対するピッチをプロットすると、必要な抵抗利得に対して必要なピッチを推定できる。必要な抵抗利得は次式によって決まる。
必要な最終の抵抗値 |
トリミング前の平均抵抗値 |
計算したピッチが許容できるピッチ幅を残すかどうかは、計算したピッチから近似したカーフ幅を引算することによって経路幅を推定できる。すなわち、経路幅=ピッチ−カーフ幅両者の抵抗材料の平均抵抗利得データは、y をピッチ、x を抵抗利得とした次式によって最適近似を行うことが可能である。y=756.73x−0.4417その結果、与えられた抵抗利得に対し必要なピッチの推定が可能になる。同様に、最大切断数は、y を必要な切断数、x を与えられた抵抗利得に対して必要なピッチとしたときの次式の関数から推定できる。y=1058.8x−0.9617 トリミング精度 の検討上述したように、目標はそれぞれの抵抗材料に対して、0.08 %以下の標準偏差をもつ0.1%の公差範囲が可能になる条件を決定することにある。1500Ωの材料には1.5MΩの公称値を採用し、40Ωの材料には25kΩの公称値を採用した。
まず、1500Ωの材料のトリミングを行った。長い微細トリミングをもつ標準のサーペンタイントリミングパターンを使用して、二つの平板を加工した。この加工では、まず、列を目標の約99%にトリミングし、次に、この列を最終トリミングによる微細加工によって、抵抗が目標値をもつようにした。2種類の材料をトリミングした後の歩留りは99%以上であった。これらの平板を22時間後に再測定したときの平均ドリフトは約0.5%の正値であった。標準偏差はそれぞれ0.009%と0.008%から0.08%と0.09%へと約10倍の増加を示した。
第3の基板に対して2段階のトリミングを行った。まず、公称値よりも1.5%少ない目標でのサーペンタイントリミングを行い、次に、この基板を室温で24時間にわたって放置した翌日に最終トリミングを行った。その22時間後に1と2の基板を再測定した。平均ドリフトは0.04%以下であり、標準偏差は基本的に等しい0.01%であった。歩留りは同一の99%に維持された。
1500Ωの材料の結果との一致性を調べるために、40Ωの材料を同一の方法でトリミングした。まず、2枚の平板をサーペンタイントリミングと微細トリミングによって同時にトリミングした。22時間後の平均シフトは0.1 %以下であり、標準偏差の増加はわずかに0.01%であった。22時間後の歩留りは>99%であった。
第3の基板に用いた分離方式によるトリミング加工の場合、平均ドリフトの変化量はトリミング直後の−0.0242%から22時間後の−0.0201%へと減少した。標準偏差は実質的に変化がなく、トリミング直後の0.0073%が22時間後に0.0074%になった。
これらの結果は最近の産業用トリミングの要求を満たしている。得られた公差範囲の狭い分布と高い歩留りは、25kΩから1.5MΩまでの抵抗の広い範囲に対して、グリーンレーザトリミングが実用できることを示している。また、トリミングして22時間後のドリフトも調べ、1500Ω材料をトリミングした直後の正値のシフトが22時間後に負値の最終シフトへ大きく減少することを実証した。このシステムがさまざまなトリミング用途に対して汎用性をもつことも実証した。
40Ω材料をトリミングした22時間後の比較試験も行った。このトリミング後のデータからは、ドリフトが非常に少なく、標準偏差の悪化は目標とした交差範囲内に十分収まることが分かった。また、2段階トリミング工程によるトリミング後の比較試験も行った。22時間後のドリフトの変化は実質的にゼロであり、標準偏差には測定可能な変化が現われなかった。
結び
グリーンレーザにもとづく新しいトリミングシステムが開発された。得られた結果から、高精密ガルバノメータと高性能機械加工レンズを備えたグリーンレーザは、より狭いカーフ幅とより小さいHAZを実現できることが分かった。< 0.08 %以下の標準偏差をもつ>0.1%の公差範囲を達成した。さまざまな切断間隔で蛇行トリミングした材料のパターンを使用して、製品の試験サンプルの抵抗利得特性を詳しく評価した。2500倍以上の抵抗利得を得ることができた。このように、従来のIRレーザシステムの場合に比べると、グリーンレーザの技術は実現可能な最大抵抗利得を大幅に改善できる。また、基線測定データから、いくつかの予測関数を定式化した。これらの関数は所望の抵抗値が製造される経路幅から実現できるかどうかの判断に役立つ。また、制御パラメータを可変量にしてピッチと抵抗利得との関係を調べた。さらに、与えられた一連の条件に対して、実現できる抵抗利得、ピッチおよび最大切断数を推定するための関数が取得データからどのようにして構成されるかについても明らかにした。
われわれの結果はグリーンレーザでトリミングした薄膜抵抗が厳しい抵抗利得の公差範囲に適合することを示している。波長を1μmから0.5μmへ短くすることによって、スポットサイズも小さくなる。このスポットサイズの低減も抵抗のさらなる小型化にとって非常に重要になる。また、IRに比べると、緑色での薄膜材料の吸収ははるかに強い。この強い吸収によって、切断品質は改善され、熱影響も少なくなり、より安定なトリミングの結果を得ることができる。