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建設業における切断加工

ペーター・ベック

ヤマザキマザックは、建築用途の新しい設計コンセプトを開発するだけではなく、その最初のユーザでもあった。

 世界中の都市のシルエットは、進化し続ける地域社会のニーズに合わせて建てられる建物によって変化している。人々は、より開放的で現代的な外観を望むようになっているため、そうした建物に対する設計要求もまた変化している。新しいニーズや嗜好を満たす構造を作り出すため、生産工程も徐々にそうした要求に合わせなくてはならなくなっている。
 建設業界に最先端技術を持ち込もうと、ヤマザキマザックオプトニクスは、レーザによるパイプ切断技術を利用した設計技術にもとづいた設計コンセプトを開発し、特許を取得している。これは、この技術にとって最初の商用アプリケーションであり、建築にレーザ切断技術を利用する大きなメリットを提示している(図1、2)。
 レーザ切断された構造部材を利用して設計された最初の建物は、美濃加茂市にあるヤマザキマザックワールドテクノロジーセンタだ(図3)。世界中からの訪問客のためのテクノロジーセンタには、大きなオーディトリアムやカフェテリア、そして同社の種類豊富なレーザ加工機および工作機械の実演エリアがある。建物全体の大きさは25×175mで、内部には支柱がないにもかかわらず、広く開放的な雰囲気をもっている。建物の設計の許容誤差は構造全体で±2mmだった。
 元々の設計は、伝統的な工法を用いて開発された。設計の再検討の段階で、レーザ切断されたパイプを使用してトラス(単線架線柱)などの構造部材を設計するという議論が持ち上がった。施工を担当した竹中工務店は、そのような方法を耳にしたことはなく懐疑的だった。だが、ヤマザキマザックが聞きたかったのはまさしくそれだった。これがきっかけで、ヤマザキマザックはこの方法が可能であるということを示すための「航海」へと乗り出したのだ。サンプルのトラスジョイントが設計され、デモンストレーション目的で切断された。部材は建設現場に運ばれ、試験目的で組立治具が使用された。竹中工務店の設計技師らが立ち会う中、現場に試作品部材が組立てられ、設計技師らにこの方法が実行可能であることが示された。このデモンストレーションによって、従来の工法よりも少ない工数で、現場でのトラスの組立と要求精度内での溶接が可能だということが立証された。竹中工務店は、この情報を同社の設計部署に持ち帰り、この新しい方法にもとづいて全体の設計をやり直した。
 建物の建設は2005年夏に始まった。外側の支柱用の多くの部材同様、トラス用のパイプ類はヤマザキマザックのパイプ切断用レーザを使用して切断された。支柱の部材は、組立工場で組立てられてから、建設現場に運ばれた。ホゾとホゾ穴を使用した設計法とレーザ切断された接続平板部材が支柱の様々な部材の調整に使用され、速く正確な建築を可能にした。これらの支柱は所定の位置に配置され、レーザ切断された他のパイプと溶接され、高精度な骨組みが組立てられた。
 その後、長さ25mのトラス用部材が建設現場に運ばれ、最終的な組立が行われた。屋根部のトラスを組むため、実物大の建築用治具が建物の骨組み内に組立てられた。これによって、トラスは組立て場所から移動して屋根の設置場所まで1回の動作で配置することができる。つまり、アイドルタイムを短縮できる。トラスの組立てと配置に要する時間は、1トラス当たり、組立て、溶接、塗装、構造上への配置を全て含めて5時間半だ。総建築時間は、従来の工法に比べて約40 %節約できることになる。この建物のグランド・オープンは、2006年春、数週間にわたり世界中から7000名の訪問客を迎えたイベントの会期中に行われた。
 この、レーザによる切断法を用いたプロジェクトを経験した後、この革新的な設計コンセプトの有益性を実感した竹中工務店は、この工法を利用できる新たな機会を探し、そしてあるプロジェクトを見つけ出した。屋外のリクリエーション施設に建設するドーム型の建物だ。ナガシマスパードーム(三重県桑名市、ナガシマスパーランド内)と呼ばれるこの多目的スペースは、巨大ウォーターパークと大規模な集会/コンサート会場用に設備を変更して利用する(図4)。
 ドームには単層のラチス(格子)屋根が作られたが、邪魔になる支柱を作ることはできなかった。この建物の設計はワールドテクノロジーセンタとはまったく異なるものだったが、ドームの建設には、ホゾやホゾ穴、接合部材を使用する、よく似た設計コンセプトが用いられた。ドーム部を現場で組立てるなど、工法もよく似た方法が用いられた。このプロジェクトは、5ヶ月少々で完成した。従来法と比較すると35%の時間節約ができたことになる。
 これら最初の二つの事例の後、この工法にはいくつものコスト節約要素が存在することがわかった。まず第1に(これが最も重要なのだが)、労働力の節約だ。両建物とも、従来法と比較して約35 〜 40 %も少ない時間で完成した。これは、厳しい予算のまま、より短い納期を求められる大きな建築プロジェクトの需要を考えると、非常に意味のある時間の節約になる。また、労働力の節約に関連しては、熟練職人を使用できるという隠れたメリットもある。必要なスキルを備えている人間は徐々に少なくなってきている。工期をより短くできれば、施工業者は同じサイズの熟練した労働力を維持しながら、より多くのプロジェクトをこなして行くことができる。
 この工法に関して、もう一つ重要なことは、従来の工法で発生していたサイズの変更や再加工が必要ないことだ。ほとんどの建物の設計では、構造用鋼材の製造過程での変化が原因で、追加工(2次加工)や設計変更が必要になる。しかし、非常に高い精度でパイプのレーザ切断ができることによって、たとえ建物全体を通じた許容誤差を±2mmに抑えなくてはならない場合でも、変更や再加工の必要がなくなった。溶接前に精密な治具の中で部材を組立てることによって、各部ごとのバラツキがなくなった。
 また、見過ごされがちだが、材料の移送コストも大きな節約だ。大きく重量のあるトラス部材を建築現場へ移動するには、通常、特別な装置が必要になる。また、こうした部材を大きな都市や過密地域に移動するとなると、建築現場周辺に大きな混乱を引き起こす。しかし、組立て前の小さな部材を現場に運ぶ方法ならば、通常のトラック運送業者を利用でき、建築現場周辺の混乱も最小限に抑えられる。
 おそらく、多くの建築家や設計技師が受けるであろう最も大きなメリットは、これまで不可能とされていた多くの外観特徴をもつ未来型建築物を設計できることだ。非常に多くの人々が開放的で構造的に人目を惹く設計を望んでいるが、今や、レーザ切断された部材を使用すれば、その設計も建築も容易にできるのだ。レーザによるパイプ切断加工によってもたらされる精密生産技術と、モデリング技術のような設計ツールを併せて使用することによって、新しいアイデアを現実のものにすることができるようになる。
 どの産業でも、設計上の制約はその設計を「生産」する技術能力の限界に基づいてきた。レーザによるパイプ加工は、建築産業にまったく新しい局面を持ち込むだろう。この新しい技術をどのように利用できるかという個人の発想次第で、設計の制約要因を排除し、新しい未来を実現することもできるのだ。

図1 建築用パイプ部材の精密レーザ切断。

図3 ヤマザキマザックのワールドテクノロジーセンタはレーザ切断された部材を使用した立体トラスを用いて建設された。

図4 ナガシマスパードームにはラチス屋根が導入され、レーザ切断された部材が使用された。

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