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自動車にデザイン自由度を与えるブレージング技術

車は先端技術の固まりであると言われているが、どのような技術を投入するかについては、地域差がある。日本車は、エレクトロニクス制御で優れているが、ヨーロッパ車は、車載LAN、造形美などで世界の最先端にあると言える。

 神は自らに似せて人を創ったと言われている。しかし、人が同じように、自分の頭にある像を造形化しようとすると簡単にはいかない。自動車産業の事情に詳しい住友重機械アドバンストマシナリーの綾部学氏は「ドイツ車の造形美は、プレスでは一発で抜けない」と指摘する。だとすれば、思い通りの造形美を実現する解は他にあるか。
 綾部氏は、同社営業部でドイツのスキャンソニック社製品の販売を担当している。綾部氏は「スキャンソニックのレーザ・ブレージングなら、ヨーロッパ絵画にあるヴィーナスやキューピッドの曲線を車のルーフやテールに実現できる」と主張する。
 ヨーロッパ車では、フォルクスワーゲン、アウディ、ルノー、ボルボなどがスキャンソニック社の開発したブレージング装置をすでに何百台も導入しており、日本車やアメリカ車に見られない形状を創り出している。
 プレスで抜くのが難しければ、複数のパーツの組み合わせになるが、そのつなぎ目を目立たなくさせ、きれいに仕上げるには、しかも経済的に実現するには、特別な技術が必要となる。

シーム・トラッキング機能

 スキャンソニック社は、2000年に会社を設立し、事業を拡大してきた。コアテクノロジーは、シーム・トラッキングという機能(ならい装置)。これは、レーザ・ブレージング(ロウ付け)、ウエルディング(溶接)などで金属のつなぎ目に沿ってレーザヘッドを高精度にガイドする技術だ。オプティクスとシーム・トラッキング機構をレーザヘッドに集積したシステムがスキャンソニック社の製品群になる。
 つなぎ目をトラッキングする機能としては、光学系を用いて画像処理でつなぎ目を認識しながらトラッキングするタイプもあるが、スキャンソニック社のメカニカルタイプを使用すると高速にトラッキングできる。ブレージングでは、フィラーの先端をトラッキングに利用している。
 ブレージングとは、金属を接合させる溶接技術の一種。接合する部材(母材)よりも融点の低い合金(ロウ)を溶かして一種の接着剤として用いることにより、母材自体を溶融させずに複数の金属を接合する。この接合に用いられる合金がフィラーだ。このフィラーにレーザ光やプラズマ光を当てて溶かし、二つの材料を接合する。
 シーム・トラッキングでは、常に供給されるフィラーの先端が、わずかなギャップに沿ってつなぎ目をトラッキングする。トラッキングヘッドは、横方向(x, y)にも、上下(z )方向にも動き、プログラムされた接合パスからの逸脱を補正する機能も搭載されている。
 フィラーを用いない場合には、細いニードルを取付け、ニードルがつなぎ目をトラッキングする機構になっている。ALO(Adaptive Laser Optic)と名づけられたこの製品は、現在、880nm〜1070nmのCWレーザ用にALO3がリリースされている。使えるレーザとして同社が挙げているのは、ファイバレーザ、半導体レーザ、固体レーザ、ディスクレーザ。ワーキングレンジは、z 軸方向で±5mm、y 軸方向で±15mm。
 スキャンソニック社のこの機構によって、ブレージングや溶接ロボットにセンサシステムが不要となった。ロボット制御に新たなソフトウエアを追加することも、新たなデジタル入出力ポートを用意する必要もない。ロボットは、プログラムされたそのままでよく、それ自身の決まった位置を動き、全手順を継続制御していればよいことになる。レーザヘッドが自動的につなぎ目をトラッキングし変動を補正するので、ロボット操作に複雑な調整は不要となっている。つなぎ目トレースの変動補正はロボットの制御とは独立して自動的に行なわれる。
 住友重機械アドバンストマシナリー取締役営業部長、山中康弘氏によると「ギャップがほぼゼロになったり、力がかかりすぎるとトラッキングは外れるが、そこはオペレーション上のノウハウがあり、位置制御されている。」
 この技術そのものは、パテントペンディングであるが、それに加えて背後にあるノウハウも重要だ。
 トラッキングシステムは、レーザヘッドに搭載され、ブレージング、直接溶接などに使用されている。ヨーロッパの自動車メーカーが、自動車のルーフ、トランクなどの溶接用途に大量に採用している。
 シーム・トラッキング付のレーザブレージングシステムが初めて導入されたのは2005年5月、それから約10ヶ月後の2006年3月にスキャンソニック社は600台目のスキャンソニック・プロセスヘッドを生産し、同社の顧客の一つである自動車メーカー、アウディに出荷した。スキャンソニック社は「アウディは、同プロセスヘッドをシーム・トラッキング付で使用する」と発表している。
 なお、シーム・トラッキング機能はプラズマソースとの組合わせも可能で、スキャンソニック社は、プラズマソースを供給するオーストリアのイノコン社と提携し、「プラズマトロン」という製品を両社で作り上げている。綾部氏によると、イノコン社のプラズマソースはノズル先端からカソードを1.5mm程度突き出す独自設計によってプラズマの揺らぎを抑えており、溶接速度向上に寄与している。ただし、加工ディスタンスや熱密度はレーザにはおよばない。また、トーチのサイズもレーザに比べると大きさが必要になる。このため綾部氏は、「簡単な溶接ではプラズマソース、高度な溶接ではレーザを利用することになるだろう」と見ている。

フォルムを気にし始めた自動車産業

 スキャンソニック社のシーム・トラッキング機構は、上に見たようにブレージング、溶接ロボットに組み込みやすい点がアドバンテージの一つ。加えて、加工スピードも向上し、車のデザインに自由度を与える。綾部氏は「日本でも、間違いなく使われるようになるだろう」と見る。
 「会社によって温度差はあるが、スキャンソニックを直接訪問したりして本気になっている顧客も出てきている。注文はすでに入っていて、来期にはそれを増やしたいと言われている。どこかが口火を切り、それがヒットすると急速に広がるだろう。日本車も、ドイツ車ライクのフォルムになっていくだろう。」
 スキャンソニック社製品の最大手顧客は、現状はフォルクスワーゲン。スキャンソニック社は、さらに北米、日本にもビジネスを展開しようとしている。スキャンソニック社やイノコン社の製品は、住友重機械アドバンストマシナリーにとっては新規の製品。同社の中核商品は、GSIグループ社のYAGレーザやIPGフォトニクス社のファイバレーザだ。
 山中氏は、「ユーザの求めに応じて、これらのレーザとスキャンソニックのトラッキング機構を組み合わせて加工装置をデザインすることもある」と言う。どのような加工装置になるかはまだ見えていないが、上に見た新技術を組込んだ加工装置によって、日本車のフォルムがヨーロッパ車ライクになっていくことが、来年以降に起こりそうな展開になりつつある。

図1 スキャンソニック社のALO3 アダプティブ・レーザ・プロセスシステム。シーム・トラッキングでは、常に供給されるフィラーの先端が、わずかなギャップに沿ってつなぎ目をトラッキングする。

図2 専用のインタフェースが用意されている。並列接続で必要なモジュールロボットに接続。図の㈰ではパワーサプライとフィールドバスインタフェース、㈪ではクーリングウォータなどを接続。マウント、取替え簡単。誤接続なし。システムダウンタイムとオペレーションコストを最小化。

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