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LED植物工場で“甘くて栄養価の高いミニトマト”の安定生産に成功

August, 13, 2025, 東京--東京大学大学院農学生命科学研究科の矢守航准教授らの研究グループは、一般的なミニトマト品種(CF千果;タキイ種苗株式会社)を用いて、人工光型植物工場(LED植物工場)における高品質栽培の手法として、従来型のI字栽培と新開発のS字多段式栽培を比較検証した。I字栽培は茎を垂直に伸ばして1本のワイヤに誘引するシンプルな方式であり、S字栽培は茎を水平に曲げながらS字状に多段の棚に誘引し、各層の側面にLEDを設置する方法。
研究では、LED植物工場におけるトマト栽培が、果実品質の面で温室栽培を大きく上回ることを明らかにした。I字栽培・S字栽培ともに、糖度は約15%、ビタミンC含量は約7%、リコピン含量は約7%高く、いずれも温室栽培を超える水準を示した。「LEDではトマトはうまく育たない」とされてきた従来の常識を覆す成果となった。
さらに、S字栽培では光を株全体に均等に当てることが可能となり、葉位間における光合成量のばらつきが大幅に改善された。これにより、果実の糖度が向上するとともに酸度が適度に抑えられ、糖酸比(甘味と酸味のバランス)がI字栽培よりも有意に高くなり、“よりおいしい”トマトの生産が実現した。加えて、株を水平に展開することで、播種から初収穫までの期間も約2週間短縮されるという利点も得られた。
この研究では1株から最大23段果房の収穫に成功し、長期間にわたる安定生産が可能であることも実証された。
以上の結果より、LED植物工場におけるトマト栽培には、2つの実用的な選択肢が確立されたことになる。すなわち、①I字栽培は設備改造が少なく導入が容易であり、高糖度・高リコピントマトの栽培に適する方法である一方、②S字栽培は同様に導入しやすく、高糖度・高リコピンに加え、糖酸バランスが向上し、早期収穫も可能な高付加価値型の栽培法であるということ。
この成果は、都市部の限られた空間での食料自給や、将来的な宇宙農業における果菜類の安定供給の実現に向け、大きな一歩となるものである。

(詳細は、https://www.a.u-tokyo.ac.jp)