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高強度深紫外LEDにより鉄道車両内の省電力な空気殺菌を実現

February, 19, 2025, 東京--情報通信研究機構(NICT)未来ICT研究所の井上振一郎室長らの研究グループは、旭化成株式会社と共同で、発光波長265 nm帯の高強度深紫外LEDを搭載した鉄道車両用空気殺菌モジュールを開発し、静岡鉄道株式会社の実運行中の鉄道車両内への搭載を実証した。

今回開発した高強度深紫外LED空気殺菌モジュールは、従来技術の水銀ランプを使用したモジュールと比較し、空気中を浮遊するウイルスの不活性化に要する電力の大幅な削減(40 %以上)を達成した。同モジュールは、実際に旅客運転を行っている鉄道車両へ搭載され、1か月間の試験運転を実施し、安全・安定な動作が確認された。

研究成果は、高強度深紫外LED技術により、鉄道車両内の省電力な空気殺菌を実現したものである。空気中を浮遊するウイルスを介したエアロゾル感染の脅威から国民の健康と安全を守り、また水銀廃絶による環境汚染防止や、省電力化によるCO2削減に貢献する技術として期待される。

今回開発したモジュールは、小型・軽量な深紫外LEDの特長を活かし、車両連結部の上部(かもい)内部にコンパクトに搭載され、車両内のウイルスを含む空気を吸入し、モジュール内で深紫外光照射により不活性化後、清浄な空気を排出する。

同モジュールは、殺菌効率の最も高い発光ピーク波長265 nm帯の高強度深紫外LEDチップをマルチチップ実装し、流入する空気の方向と対向するように配置することで、空気中のウイルスと深紫外光の相互作用を最大化している。水銀ランプと比較して、指向性の高いLEDの特性を活かし、流入するウイルスを効率的に不活性化する構造を実現した。

このモジュールの効果を検証するため、空気中を浮遊するウイルスに対する不活性化性能を評価した。25 m3の空間中に試験用ウイルス(大腸菌ファージMS2)を、ネブライザー(エアロゾル発生器)を用いて噴霧し、モジュールの消費電力量及び稼働時間に対するウイルス不活性化量をプラーク法により測定した。また、比較用として低圧水銀ランプを使用した参照用モジュールを製作し、同様の実験を行った。

ウイルス不活性化に必要な消費電力量について評価した結果、高強度深紫外LED空気殺菌モジュールは水銀ランプを用いたモジュールに比べ、99.9 %のウイルス不活性化に要する消費電力量を40.7 %削減できることが確認された。

また、500mW出力の深紫外LEDを複数個搭載した同型の別モジュールを使用し、35分の稼働で90 %、71分の稼働で99 %、106分の稼働で99.9 %のウイルスが不活性化されることが確認された。一方、水銀ランプを用いたモジュールでは、99.9 %の不活性化に188分を要した。これにより、今回開発した高強度深紫外LEDモジュールが、水銀ランプに比べて、不活性化に要する時間を43.6 %短縮できることを明らかにした。

今回の成果は、高強度深紫外LED技術を活用し、鉄道車両内での省電力な空気殺菌を実現したものである。この技術は、空気中のウイルスを介したエアロゾル感染のリスクを低減し、国民の健康と安全を守るとともに、水銀廃絶による環境汚染防止や、省電力化によるCO2削減にも寄与することが期待される。

今後の展望
今後、NICT及び旭化成は、今回実証した高強度深紫外LED空気殺菌モジュールの社会実装に向けて、関連企業との連携を含めた取組を推進していく。特に、公共交通機関や医療施設など、空気感染リスクの高い環境への採用、社会普及を目指す。
(詳細は、https://www.nict.go.jp)