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UV-C IN HEALTHCARE

August, 6, 2021--対COVID-19 だけでない医療施設内、病原菌対象とした殺菌用紫外線技術

モーリー・ライト

UV-C 照射に新型コロナウイルス( SARS-CoV-2 )を不活性化させる効果があることが示されたのは喜ばしい話だが、病院などの医療施設では、それよりもはるかに広範囲にわたる病原菌を対象としたGUV 技術が以前から求められており、それは問題を解決するための唯一の手段である。

 前号から始まった本誌最新のspecial report は、初回から衝撃的な事実を指摘している。これは、新型コロナウイルスに関する話ではなく、病院などの医療施設に限った話でもないということだ。殺菌用紫外線( germicidal ul­ traviolet:GUV )照射は、何年も前から研究され、病院で使用されている。一般的には255nm 周辺のUV­C 域照射が、多くの病原菌に対して利用されている。しかしそれは、細菌性、真菌性、ウイルス性の感染症と闘うための 1 つの階層にすぎない。医療関連施設において、UV­C は常に、医療関連感染( Healthcare­Associated Infection: HAI )と闘うためのさらなる手段とみなされてきた。一世代に一度のパンデミックが起きても、その事実に変わりはない。
 病院では現在、新型コロナウイルスへの曝露によって引き起こされる呼吸器系疾患である新型コロナウイルス感染症( COVID­19 )との壮大な戦いが繰り広げられている。しかしこの戦いで重きが置かれているのは、医療従事者や人工呼吸器などの設備が不足する中で、未知の病の治療法を学び、できるだけ多くの命を守ることである。新型コロナウイルスやその他の病原菌の常時消毒も、この戦いの1 つの要素である。UV­C がその手段として利用されるケースもある。その例については、後ほど紹介したいと思う。
 それでもHAIは、世界中で大きな問題となっている。米疾病予防管理センター(Centers for Disease Control andPrevention:CDC)のウェブサイトには、HAIに関する専用セクションが設けられている。CDCによると、毎日入院患者の31人に1人に、少なくとも1件のHAIが発生するという。CDCは数年前の経過報告書の中で、年間約170万人の入院患者にHAIが生じ、10万人近くがHAIで死亡すると述べていた。新型コロナウイルスとは規模が異なるが、これは社会全体ではなく、別の症状の治療で入院を認められた限られた範囲の人々の話である。
 インターネットを検索すると、HAIによって病院、そして実質的には米国社会に課される費用について、かなり幅のある概算値が見つかる。病院の直接コストは、最大で年間500億ドルに上るという見積もりもある。その半分だったとしても莫大な金額である。病院はその費用の一部を負担し、保険会社、健康保険を提供する雇用主、個人などもその一部を負担することになる。
 HAIとの闘いは、病院にとって重要な業務である。医療機関の評価を行う米リープフロッグ・グループ社(TheLeapfrog Group)などの組織によって、一般的なHAIに関する病院の実績が報告されている。保険会社は、評価の高い施設を優遇し、個人も、自分を適切に扱ってくれる病院を選択できるようになりつつある。
 CDCはウェブサイト上で、20種類弱のHAIを特定している。中でも危険なのは、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などのブドウ球菌感染症と、CDI(クロストリジウム -ディフィシル感染症)の2つであることは明らかだ。結核さえも、感染が広がる場合が時々ある。
 つまり、消毒や病原菌の不活性化は、医療施設にとって新しい動きではない。GUVも新しいものではない。消毒用のUVに関する研究は、少なくとも1800年代終わりにさかのぼる。米マウントサイナイ医科大(Mount Sinai Icahn School of Medicine)のVincent Laboratory所長を務めるリチャード・ヴィンセント氏(Richard Vincent)は、現世代のGUV研究の第1人者の一人である。ヴィンセント氏は、故フィリップ・ブリックナー博士(Philip Brick ner)とともにUV-Cの研究を始めた。ブリックナー氏は、ホームレスの健康を維持する手段としての技術に専念した人物だった。
 ブリックナー氏は、1950年代に結核病棟で勤務した経験があった。1980年代終盤に結核が大都市で流行したとき、ブリックナー氏とヴィンセント氏は、上層空気UV-Cシステムの導入に尽力した。このシステムは、天井近くの放射面を利用して、空間内にいる人を危険にさらすことなく病原菌を不活性化させるものだった(この用途の詳細については、P8「進化するUV-C LED検討時の重要性消費電力やコストよりも用途適合性」の記事を参照のこと)。当時のCDC所長は、そのような消毒の効果や安全性に関する疫学的根拠がないとして、これに反対した。
 ヴィンセント氏は結局、結核の研究に7年間携わった。同氏のチームは、光源の品質、光学素子、メンテナンスなどの他、放射線測定には必ず放射計が必要であることも学んだと、同氏は述べている。試験運用で生じた過剰被ばくは、1件だけだった。そして、そのようなGUV装置が、米国中のリスクの高いホームレスシェルターに設置された。ヴィンセント氏と複数の大学や企業で構成されたチームによる取り組みの大半は、上層空気システム、設置、気流要件などを定める、米暖房冷凍空調学会(American Society of Hea-ting, Refrigerating and Air-Condi-tioning Engineers:ASHRAE)のGPC-37規格を満たすことだった。待合室、放射線室、手術室、病室など、医療施設全体にこの技術を適用することが推奨された。
 より最近では、多くのHAIの原因となる病原菌の不活性化に関する定量的な研究が、非常に活発に行われている。ScienceDirectは、病院の病室、通路、バイオハザードルームにおける研究の詳細を公開している(https://bit.ly/39w3ODM)。上層空気GUVシステムを設置する前と81日間使用した後のエアサンプリングでは、空中浮遊菌数が42%減少したことが示された。また、CDIは年間8件から1件に減少したことが示されている。
 蘭シグニファイ社(Signify)は現在、上層空気GUVシステムの最も著名なメーカーで(図1)、同社傘下の米クーパー・ライティング・ソリューションズ社(Cooper Lighting Solutions)は、本誌3月号に掲載した教育施設におけるUV-Cに関する記事で紹介したものと同じ製品を販売している(https://bit.ly/3fn5tz8)。シグニファイ社は最近、安全性に関する研究機関である米 Innovative Bioanalysisが行った有効性試験の結果を公開した。同研究機関によると、この上層空気殺菌システムによって、わずか10分で室内に浮遊する新型コロナウイルスの99.99%が不活性化し、20分後に同ウイルスは検出可能レベル以下になったという。

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図1 シグニファイ社の上層空気UV-C殺菌システム(右下)は、10分以内に室内の新型コロナウイルスを99.99%不活性化させることが明らかになっている。このシステムは、医療関連の小売分野を対象として、ドイツのドラッグストアdm drogerie(写真)に設置されているが、病院などの医療施設にも適用可能である。(写真提供:シグニファイ社と同社事業部門の1つであるクーパー・ライティング社)

複数階層からなる消毒対策
 当然ながら、空気感染は危険性の1つにすぎない。新型コロナウイルスの感染が拡大した当初、専門家らがそれよりもはるかに問題視したのは、ウイルスが付着した表面に触れることによる感染だった。表面感染は多くのHAI病原菌に伴う問題であり、医療関連施設の消毒に複数階層のアプローチが必要になる理由の1つである。
 多くの病院が、表面に付着した病原菌の消毒にUV-C照明を利用し始めている。繰り返すが、これは新型コロナウイルスの感染が拡大したために現れた新しい概念ではない。表面消毒技術の主要な開発企業の1つが米ゼネックス社(Xenex)で、同社の最も有名な製品が、LightStrikeブランドとして販売されているUV-Cロボットファミリーである。同社の製品は、多くの医療施設で使用されている。本誌は、米ミシガン州にあるヘンリー・フォード・ヘルス・システム(Henry Ford Health System)で、感染予防及び管理担当システム・ディレクターを務めるマーティン・レヴェスク氏(Martin Levesque)に話を聞く機会を得た。レヴェスク氏によると、ヘンリー・フォード病院がこのロボットを使用し始めたのは6年前だという。
 ロボットの操作は、訓練を受けたスタッフが行う必要がある。ヘンリー・フォード病院の従業員は、親しみを込めて、これらのスタッフを「Robot Wrangler」と呼んでいる(図2)。Wra-nglerは、個々のロボットに名前まで付けている。Wranglerは、カーテンを閉めるなど、消毒に向けた部屋の準備を行う必要がある。病室の消毒は通常、患者の利用が終了する時点で行われるため、ほとんどの場合、室内は無人となる。Wranglerは、ベッドのマットレスを取り除き、部屋を密室にして、無線装置でロボットを制御する。レヴェスク氏によると、部屋の消毒には、約15分かかるという。ロボットは、ベッドの両側とトイレを消毒する。また、手術があった日の終わりには手術室の消毒にもロボットが用いられる。

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図2 ゼネックス社の LightStrikeロボットは、ヘンリー・フォード・ヘルス・システムにおいてRobot Wranglerと呼ばれるチームによって、病室や手術室の消毒に使われている。(写真提供:ヘンリー・フォード・ヘルス・システム)

 しかし、ロボットは、表面に化学物質を吹きかける従来の消毒作業の代わりにはならない。ロボットを使用する前に部屋の拭き取りが行われると、レヴェスク氏は述べた。マウントサイナイ医科大のヴィンセント氏は、目の前にある難しい問題について説明してくれた。UV-Cは、多くの物質に対して透過率があまり高くない。患者がベッド脇のテーブルの表面に向けてくしゃみをした場合、外側表面の下に付着した粘液に含まれる病原菌には、UV-C照射は届かない。レヴェスク氏によると、ヘンリー・フォード病院では消毒作業にイオン銃も使用しているという。
 ロボットの話題から離れる前に、水銀ランプの代わりにパルスドキセノン光源を使用するゼネックス社の最新製品を紹介しておこう。キセノン光源には、水銀のような有害物質は含まれていない。またパルスランプは、価格は高くなるが、出力が高く、病原菌をより短時間で不活性化させるというメリットがある。前出のUV-C LEDに関する今月号掲載の関連記事では、上層空気殺菌システムにおいて現時点でLED光源が活用できることが説明されているが、LEDは、ロボットに使用するには現時点では費用対効果が合わない。

常設のUV-C装置
 上述の教育施設の記事で紹介したとおり、ロボットに代わる表面消毒手段は確かに存在する。照明メーカーは、可視光照明器具とともに天井に取り付ける形のUV-C装置を直ちに提供し始めており、UV-Cと可視光の両方を照射する1つの照明器具が現れるのも、おそらく時間の問題である。メーカーは、UV-Cが空間内にいる人に決して照射されないようにするための保護機構を設ける必要がある。ヴィンセント氏は、病院の施設構造への統合が行われるだろうと述べた。しかしまずは、ロボットのようなデバイスによって一連のエビデンスが文書化される必要がある。そうしたデータによって技術の有効性が実証されれば、保険会社からより有利な条件を得ることができるようになるため、病院はUV-C設置に伴う費用を賄うことができる。
 ヴィンセント氏もレヴェスク氏も、患者用トイレでのUV-Cの利用について語ってくれた。トイレなどの場所では、表面に触れる機会が多い。ヴィンセント氏によると、シンクの排水溝の病原菌は、流れる水によってエアロゾル化する可能性があるという。そこでマウントサイナイ医科大では、275nmのLEDを使用した常設装置の試験を行っている。この装置は、扉が閉まって室内が無人になると、連続運転するという。
 レヴェスク氏によると、ヘンリー・フォード病院でも、ミシガン州クリントンにあるHenry Ford Macombキャンパスの新棟のトイレにUV-C装置が設置されているという。この施設では特にCDIの発生率を、UV-C照明を導入したこの棟と医療施設全体で比較したいと考えている。

紫色と遠UV-C
 本誌は、他の帯域と殺菌効果についてもヴィンセント氏に話を聞いた。同氏によると、マウントサイナイ医科大では、連続使用すれば長時間露光によって病原菌の不活性化が可能な405nmの技術の試験も行ったが、同大の試験では良い結果が得られなかったという。
 同氏は、人がいる空間でも安全に使用できるという意見もある、222nm範囲の遠UV-C技術についても言及した。照射に必要な高い光束レベルにおいて遠UV-Cが無害であるという主張に、同氏は納得していない。
 しかしヴィンセント氏は、自身のこの1年間の研究プログラムの限界に落胆してもいる。新型コロナウイルスのパンデミックによって、研究に利用できそうな豪華な病室はなくなってしまった。さまざまな理由に基づいて、病院の今後の混雑状況が緩和されることを期待したいと思う。

HVACシステム
 本誌が調査したもう1つの領域が、HVAC(空調)システム内へのUV-Cの実装である(図3)。それは、空気感染を抑止するための最適な場所のように思われる。UV-C光源はシステム内に配置されるため、人体に危険を与えることはない。そして、すべての空気がこのシステムを通る。HVACの空気循環の頻度が、上層空気殺菌システムによる室内の局所的な空気循環よりも低いことは、教育施設の記事で指摘したとおりである。

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図3 UV-CランプをHVACシステムに組み込むことにより、空気中の病原菌を不活性化させることができる。また、コイルを清潔に保ち、システム運用の効率化にも効果があることが実証されている。(写真提供:ヘンリー・フォード・ヘルス・システム)

 ヘンリー・フォード病院とマウントサイナイ医科大の両方で、一部のHVACシステムにUV-Cが組み込まれている。レヴェスク氏によると、レジオネラ(レジオネラ症の原因となる病原菌)が、 HVACUV-Cの当初の標的だったという。そして、HVACへの組み込みには明らかに効果があった。
 意外にも、HVACシステムへのUV-Cの組み込みには、感染症とHAIとは関係のない他のメリットもあった。レヴェスク氏もヴィンセント氏も、UV-CによってHVACのコイルが清潔な状態に保たれ、カビが付着しなくなったと述べた。その積極的なクリーニングによってシステムの効率は高くなり、メンテナンスコストは低下する。
 医療施設では、さまざまな機器や器具などを消毒するためのUV-Cチャンバも使用されている。新型コロナウイルスの感染拡大時には、マスク不足が施設で問題となった。本誌も、レンセラー工科大(Rensselaer Polytechnic Institute:RPI)のLESAセンター(Cen-ter for Lighting Enabled Systems & Applications)のエンジニアなどで構成されるチームが設計して構築した、UV-Cを利用したマスク消毒システムに関する記事を公開した(https://bit.ly/3dowhfL)。このシステムは、マウントサイナイ医科大で使用された。
 レヴェスク氏によると、ヘンリー・フォード病院でも、UV-Cによるマスク消毒の実験を行ったが、過酸化水素蒸気のほうが有効であることがわかったという。奇遇にも、マスク消毒に関する話題は、本誌のUV-C LEDに関する最近のウェブキャストでも取り上げられた。このウェブキャストの内容の一部は、今月号掲載の、UV-C LEDに関する関連記事で、紹介されている(P8)。発表者である、米国のコンサルティング企業アーケッソ社(Arkesso)のマイク・クレイムズ氏(MikeKrames)も、UV-Cが多くの物質を透過しないことが問題であると述べていた。マスクを再設計して、UV-C消毒に対応しつつ、病原菌の拡散を効率的に防ぐようなマスクを設計できるのではないかと、同氏は述べた。