May, 27, 2025, Gaithersburg--米国国立標準技術研究所(NIST)の研究者らは、3Dプリントされた金属の強度を高める珍しい結晶形状を発見した。
Andrew Iamsは、電子顕微鏡を覗き込んでいるときに奇妙なものを見た。同氏は、新しいアルミニウム合金の断片を原子レベルで調べ、その強度の鍵を探していたとき、原子が非常に珍しいパターンで配列されていることに気づいた。「そのときの感動は忘れられない」と、材料研究エンジニアのIamsは語った。
同氏はこのアルミニウム合金に準結晶を見つけただけでなく、NISTの同僚とともに、これらの準結晶がアルミニウム合金を強くすることを発見した。チームは調査結果をJournal of Alloys and Compoundsに発表した。
この合金は、金属部品を製造する新しい方法である、金属3Dプリンティングの極端な条件下で形成されている。このアルミニウムを原子レベルで理解することで、飛行機部品、熱交換器、自動車のシャーシなど、まったく新しいカテゴリーの3Dプリント部品が可能になる。また、準結晶を強度に利用する新しいアルミニウム合金の研究への扉を開くことになる。
準結晶とは何か
準結晶は通常の結晶と似ているが、いくつかの重要な違いがある。
従来の結晶とは、原子や分子が繰り返しパターンでできた固体のことである。たとえば、食卓塩は一般的な結晶。塩の原子がつながって立方体を作り、その微細な立方体がさらにつながって、肉眼で見るのに十分な大きさの立方体を形成する。
原子が結晶構造を繰り返すパターンは、わずか230通りである。準結晶はそれらのいずれにも適合しない。その独特な形状により、空間を埋め尽くすパターンを形成するが、繰り返されることはない。
テクニオン・イスラエル工科大学(Technion-Israel Institute of Technology)の材料科学者であるDan Shechtmanは、1980年代にNISTでのサバティカル期間中に準結晶を発見した。当時の多くの科学者は、彼が発見した新しい結晶形状が通常の結晶の規則では不可能であったため、その研究に欠陥があると考えていた。しかし、慎重な研究を通じて、Shechtmanはこの新しいタイプの結晶が存在することを疑いの余地なく証明し、結晶学の化学に革命をもたらし、2011年にノーベル化学賞を受賞した。
数十年後、Shechtmanと同じ建物で働いていたAndrew Iamsは、3Dプリントされたアルミニウムの中に独自の準結晶を見つけた。
金属3Dプリンティングはどのように機能するか
金属を3Dプリントする方法はいくつかあるが、最も一般的なのは「パウダーベッド方式」と呼ばれるものである。この仕組みは次のとおりである。均一に敷きつめられた金属粉末の上を強力なレーザが移動しながら、溶かして固め、最初の層が完成するとその上に新しい粉末を敷きつめ、このプロセスを繰り返す。レーザは層ごとに粉末を溶かして、固体の形に仕上げるる。
3Dプリントは、他の方法では不可能な形状を作り出すことができる。例えば、2015年にGEは、飛行機エンジン用の燃料ノズルを設計したが、これは金属3Dプリントでしか作れなかった。新しいノズルは、飛躍的に改善されたものだった。その複雑な形状は、軽量な単一部品としてプリンターから出力された。対照的に、従来のノズルは、20個の別々な部品から組み立てる必要があり、重量は25%大きかった。GEはこれまでに、これらの燃料ノズルを数万個プリントしており、金属3Dプリンティングが商業的に成功できることを実証している。
金属3Dプリンティングの限界の1つは、使える金属が限られているということである。「高強度のアルミニウム合金をプリントすることはほとんど不可能だ。それらは亀裂を生じやすく、使用できなくなる」と、論文の共著者であるNISTの物理学者Fan Zhangはコメントしている。
アルミニウムのプリントが難しいのはなぜか?
通常のアルミニウムは、約700℃の温度で溶ける。3Dプリンタ―のレーザは、金属の沸点である2,470℃を超える遙かに高い温度まで温度を上げなければならない。これにより、特にアルミニウムは他の金属よりも熱くなり、冷めやすいため、金属の特性が大きく変化する。
2017年、カリフォルニア州に拠点を置くHRL LaboratoriesとUC Santa Barbaraのチームは、3Dプリントが可能な高強度アルミニウム合金を発見した。アルミニウム粉末にジルコニウムを添加することで、3Dプリントされた部品のひび割れを防ぎ、強度の高い合金が得られることを発見した。
NISTの研究者たちは、この新しい市販の3Dプリントされたアルミニウム-ジルコニウム合金を原子レベルで解明することに着手した。「この新しい金属を軍用機の部品などの重要な部品に使用できるほど信頼できるものにするためには、原子がどのように組み合わされるかを深く理解する必要がある」(Zhang)。
NISTチームは、この金属がなぜこれほど強いのかを知りたかった。その答えの一部は、準結晶であることが判明した。
準結晶はどのようにしてアルミニウムを強くするか?
金属では、完全な結晶は弱い。完全な結晶の規則的なパターンにより、原子は互いに滑やすくなる。それが起こると、金属は曲がったり、伸びたり、壊れたりする。準結晶は、アルミニウム結晶の規則的な配列を崩し、欠陥を生じさせることで、金属をより強くする。
準結晶の同定の背後にある計測学
Iamsが適切な角度から結晶を観察したところ、5回回転対称性を持っていることに気づいた。つまり、軸を中心に結晶を回転させて同じ外観にする方法は5つあるということである。
「5回対称性は非常にまれだ。それが準結晶かもしれないという決定的な兆候だった。しかし、正しい測定結果が得られるまで、完全に確信することはできなかった」(ams)
準結晶であることを確認するには、Iamsは顕微鏡下で結晶を慎重に回転させ、2つの異なる角度から3回対称性と2回対称性であることを示す必要があった。
「この発見は、合金設計への新たなアプローチを切り開くことになると思う。われわれは、準結晶がアルミニウムの強度を高めることができることを示した。今後、人々は将来の合金において、意図的に準結晶を作り出そうとするかもしれない」とZhangは話している。
(詳細は、https://www.nist.gov)