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物体製造を自己監視する3Dプリンタ

November, 24, 2023, Cambridge--マサチューセッツ工科大学(MIT)、MITスピンアウト企業Inkbit、ETH-Zurichの研究グループは、より幅広い材料に対応する新しい3Dインクジェットプリンティングシステムを開発した。
そのプリンタは、コンピュータビジョンを利用して3Dプリント面を自動的にスキャンし、各ノズルが堆積する樹脂の量をリアルタイムで調整して、材料が多すぎたり少なすぎたりする領域がないことを確認する。

この非接触システムは、樹脂を滑らかにするための機械部品を必要としないため、3Dプリンティングで伝統的に使用されているアクリレートよりも硬化が遅い材料で動作する。硬化の遅い材料の化学的性質の中には、弾力性、耐久性、寿命の向上など、アクリレートよりも優れた性能を発揮するものがある。

さらに、自動システムは、プリンティングプロセスを停止または遅くすることなく調整を行うため、このプロダクショングレードのプリンタは、同等の3Dインクジェットプリンティングシステムよりも約660倍高速になる。

研究グループはこのプリンタを使って、柔らかい素材と硬い素材を組み合わせた複雑なロボットデバイスを作製した。例えば、完全に3Dプリントされたロボットグリッパーは、人間の手の形をしており、強化されながらも柔軟性のある腱で制御されている。

「ここでのわれわれの重要な洞察は、マシンビジョンシステムと完全アクティブなフィードバックループを開発することだった。これは、プリンタに目と脳を与えるようなもので、プリントされているものを目で観察し、次に何をプリントすべきかを機械の頭脳が指示する」と、MITコンピュータサイエンス・人工知能研究所(CSAIL) Computational Design and Fabrication Groupリーダー、教授Wojciech Matusikは話している。

論文の筆頭著者Thomas Buchner (ETH-Zurich)、共同責任著者Robert Katzschmann PhD ’18は、ETH-Zurichソフトロボティクス研究所のリーダー、ロボット工学の助教授。ETH-ZurichとInkbitの他の企業も同様。この研究成果は、Nature に掲載された。

この論文は、研究者が2015年に発表したMultiFabとして知られる低コストのマルチマテリアル3Dプリンタをベースにしている。MultiFabは、数千個のノズルを使用して、UV硬化された樹脂の小さな液滴を堆積させることで、一度に最大10個の材料で高解像度の3Dプリントを可能にした。

この新しいプロジェクトでは、研究チームは、より複雑なデバイスを製造するために使用できる材料の範囲を広げる非接触プロセスを探求した。

チームは、4台の高フレームレートカメラと2台のレーザを使用してプリント面を迅速かつ連続的にスキャンする、ビジョン制御ジェッティングと呼ばれる技術を開発した。カメラは、何千ものノズルが小さな樹脂の液滴を堆積させる様子を撮影する。

コンピュータビジョンシステムは、画像を高解像度の深度マップに変換し、その計算実行は1秒もかからない。デプスマップを製造中の部品のCAD(コンピュータ支援設計)モデルと比較し、堆積する樹脂の量を調整して、オブジェクトを最終構造のターゲットに維持する。

自動化されたシステムは、個々のノズルを調整することができる。プリンタには16,000個のノズルがあるため、システムは製造中のデバイスの細部を制御できる。

「幾何学的には、それは複数の素材で作られたほぼどんなものでもプリントできる。プリンタに送り込めるものに制限はほとんどなく、得られるものは本当に機能的で長持ちする」(Katzschmann)。

このシステムが提供する制御レベルにより、ワックスで非常に正確にプリントできる。ワックスは、オブジェクト内に空洞やチャネルの複雑なネットワークを作成するためのサポート材料として使用される。ワックスは、デバイスが製造されるときに構造の下にプリントされる。完成後、オブジェクトが加熱され、ワックスが溶けて排出され、オブジェクト全体に開いたチャネルが残る。

各ノズルによって堆積する材料の量をリアルタイムで自動的、迅速に調整できるため、システムは水平に保つために、プリント面を横断して機械部品を引きずる必要がない。これにより、プリンタは、より緩やかに硬化し、スクレーパで汚れる材料を使用できる。

優れた素材
研究チームは、このシステムを使用して、3Dプリンティングで使用される従来のアクリル材料よりも硬化が遅いチオールベースの材料でプリントした。ただし、チオールベースの材料は弾力性が高く、アクリレートほど簡単には壊れない。また、より広い範囲の温度でより安定する傾向があり、日光にさらされてもすぐに劣化しない。

「これらは、現実世界の環境と相互作用する必要があるロボットやシステムを製造する場合に、非常に重要な特性である」(Katzschmann)。

研究チームは、チオールベースの材料とワックスを使用して、既存の3Dプリンティングシステムではほぼ不可能だった複数の複雑なデバイスを製造した。その一つは、独立して作動可能な19本の腱、センサパッド付きの柔らかい指、硬く荷重を支える骨を備えた、機能的な腱駆動のロボットハンドの製作である。

「また、物体を感知して把持できる6脚歩行ロボットも製作した。これは、柔らかい材料と硬い材料の気密界面や、構造物内の複雑なチャネルを作成できるシステムの能力によるものである」(Buchner)。

また、心室と人工心臓弁を内蔵した心臓型ポンプや、非線形材料特性を持つようにプログラムできるメタマテリアルを通じて、この技術を紹介した。

「これはほんの始まりに過ぎない。この技術に追加できる新しいタイプの材料は驚くほど多い。これにより、これまで 3D プリンティングでは使用できなかったまったく新しい材料ファミリーを導入することができる」(Matusik)。

研究チームは現在、このシステムを使用して、組織工学アプリケーションで使用されるハイドロゲル、シリコン材料、エポキシ、特殊タイプの耐久性のあるポリマでプリントすることを検討している。

また、カスタマイズ可能な医療機器のプリンティング、半導体研磨パッド、さらに複雑なロボットなど、新しいアプリケーション分野の研究を考えている。