November, 11, 2021, 東京--東京農工大学 大学院工学研究院の宮地 悟代 准教授は、同大学大学院生の飯田悠斗と二階堂誓哉(当時)とともに、硬質セラミックスの一種であるダイヤモンド状炭素薄膜表面に、光の持続時間が7フェムト秒(厚さにして2 μm)のレーザ光を照射するだけで、周期が60 nmのナノ構造体を表面から直接削り出せる現象の原因が、極薄の電子層に発生した短距離伝搬型表面プラズモン・ポラリトンであることをつきとめた。この現象をうまく利用することにより、近赤外のレーザ光でも周期サイズを数nmから数10 nmで制御できる新しい微細加工技術へと発展することが期待される。
研究グループは、レーザ装置から出力される波長650~1000nm、持続時間7fsのレーザ光をダイヤモンド状炭素薄膜表面に集光照射した。その結果、集光スポット中心付近全体に周期が60 nmのナノ構造体が直接形成されることを観測した。持続時間が100 fsのレーザ光を照射したときと比べると、約1/3のサイズの微細構造体が形成される。顕微ラマン分光装置と走査型透過電子顕微鏡により、この加工部分表面の結合構造変化を観測したところ、7 fsのレーザ光を照射した後の結合構造変化は厚さが10 nm以下であったことから、レーザ光によって励起された高密度の電子の層の厚みは数nmであることがわかった。さらに、理論計算により、この非常に薄い電子層には、短距離伝搬型の表面プラズモン・ポラリトンが励起され、それに付随して生じる高強度の光近接場によって固体表面が直接削り取られることを明らかにした。
今後の展開
今回発見した現象を利用すると、固体表面にフェムト秒レーザ光を照射するだけで数nmから数10 nmの溝や穴を掘ることができるため、複雑なプロセスや薬剤が不要な微細加工技術の実現が期待される。また、レーザ光を照射する位置を変えるだけで加工部分を移動できるため、加工材料の大きさに制限がなく、メートルサイズの領域へのナノ加工も容易。このような大面積領域にナノメートルサイズの微細加工を行える技術は他にはなく、例えば、メタマテリアル表面形成、構造色表面加工、MEMS用表面加工、広帯域の無反射表面形成、照明光源の指向性表面形成、X線用光学素子作製、構造化光発生用素子作製などへの応用も期待される。
研究成果は、Journal of Applied PHysicsに掲載。
(詳細は、https://www.tuat.ac.jp)