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ナノテクノロジーを心不整脈の標的治療に利用

November, 13, 2015, Ann Arbor--ミシガン大学の研究チームが開発した新しいナノ粒子が心不整脈のターゲット療法の決め手になると見なされている。心不整脈は、心拍が不規則になり心臓麻痺、心臓発作を起こす病気。
 新しい治療は、ナノテクノロジーを使って、心不整脈を起こす心臓内の細胞を正確に標的にして破壊する。齧歯類や羊で行った研究では、同大学の研究チームは、心不整脈細胞を死なせることに成功し、同時に周辺細胞に損傷を与えないことを確認した。
 心不整脈は、心拍を制御するあるタイプの心筋細胞の異常によって起こる。現在、その病気は通常は薬品による治療だが、深刻な副作用がある。また、心臓アブレーションという、ハイパワーレーザをカテーテルで心臓に入れて機能不全細胞を焼き払うという治療もあるが、これは周辺細胞に損傷を与え、動脈損傷やその他深刻な問題がある。
 研究チームは、ハイパワーレーザの代わりに低レベルの赤色照射を用いる、より正確な技術で細胞を標的にして破壊する治療に取り組んでいる。
 その技術は、現在ガン治療で広く用いられており、医師は不要な細胞を低レベルの赤色光に感度を持つ薬剤でマークする必要がある。
 この治療を心臓細胞に適用するための主要課題は、心臓毛細血管の微小な孔に入り込むが、同時に必要な薬剤のペイロードを運べるサイズの小さなナノ粒子を開発すること。
 研究チームによると、現在ガン治療に使用されているナノ粒子は約120nmだが、心臓で使えるようにするにはわずか6nmサイズの粒子が必要になる。ナノテクノロジーの基準でも極めて小さいが、粒子は感光性薬剤を詰め込まなくてはならない。薬剤は、特定タイプの心筋細胞によって吸収されるアミノ酸。さらにナノ粒子には、免疫系からのカモフラージュのために天然の化学コーティングが必要。
 研究チームは、広範に使用されているFDA承認材料、ポリエチレングリコールでできた星形の粒子を考案し、合成した。粒子は8本のナノスケールの触手を持ち、プロセスに必要な薬剤を付着させる先端がたくさんある。その粒子は内科の研究ラボスペシャリスト、Uma Mahesh Reddy Avulaによってテストされた。
 研究チームは、ナノ粒子が標的細胞によってのみ取り込まれるようにする薬剤とアミノ酸ベースのペプチドを実装したナノ粒子を注入することで、感光性の薬剤(藻から造ったもの)を標的細胞に送達する治療をテストした。次に、今日の心臓アブレーションと同じ手順を用いて赤色光をそのエリアに送り込んだ。低レベルの光はナノ粒子を吸収した細胞だけを破壊し、他の心臓細胞は損傷を受けない。
 動物実験でその技術のパフォーマンスに関して自信を得た研究チームは、次のステップではその技術を安全な臨床試験に進める。また、研究チームは医薬品グレードでナノ粒子を量産する方法の考案にも取り組んでいる。この技術をベースにした治療が普及するのは、少なくとも5年先と考えられているが、研究チームはこの技術の普及を楽観視している。