April, 20, 2015, Chicago--シカゴ大学とイリノイ大学の研究グループは、ターゲット金ナノ粒子を使用することで、遺伝子操作をしていない通常のニューロンを光で活性化できる、と報告している。
この新しい技術は、現在の光遺伝学的方法に対する潜在的な優位性を持つ大きな技術的進歩であり、黄斑変性などの病気治療開発に利用できる。
「多くの光遺伝学実験デザインは現在、正常な組織、動物に完全に適用できるようになっており、このような研究ツールの範囲を大幅に拡大し、ニューロンの光刺激を含め新しい治療が可能になる」とシカゴ大学生物化学・分子生物学、Francisco Bezanilla氏は語っている。
神経活動の制御に光を利用する光遺伝学は、神経科学研究で広く普及している強力な技術。光遺伝学は、最初に藻から発見された感光性を示すタンパク質を遺伝子改変したニューロンを必要とする。これによって研究者は、神経ネットワークや個々のニューロンを正確に光を照射することで刺激することができる。しかし、光遺伝学は、遺伝子組換えに依存しているため、それが利用できるモデル生物は相対的に限られている。
Bezanillaの研究チームは、通常の遺伝子組換えをしていないニューロンを赤外光パルスの熱で活性化できることを以前に報告していた。しかしこの方法には特殊性が欠如しており、細胞に損傷を与える。この技術を改善するために研究チームは金ナノ粒子に注目した。これは直径わずか20nmの球で、人の血液細胞よりも300倍以上小さい。
可視光で刺激すると、金ナノ粒子は光を吸収してそのエネルギーを熱に変換する。この加熱効果は、緑色光を使うことで最も効率的であり、遺伝子改変されていないニューロンを活性化することができる。しかし、効果を発揮するにはナノ粒子が細胞に極めて近いところになければならない。ナノ粒子は直ぐに拡散する、あるいはニューロンの周辺環境のなかで押し流されてしまうので、その有効性は短命である。
ナノ粒子をとどめるために研究チームは、Ts1、スコーピオン神経毒ベースの合成分子にナノ粒子を結合させた。Ts1はナトリウムチャネルに結びつき、それを阻害することはない。培養下でTs1結合のナノ粒子で処理されたニューロンは光によってすぐに活性化された。処理されていないニューロンは反応がなかった。重要なことは、処理されたニューロンは30分間連続的に洗浄された後でもまだ刺激が有効であったことだ。これは、ナノ粒子が細胞表面に強く結合していることを示している。また、余分なナノ粒子が流されるので、潜在的に有害な昇温を最小化した。
Ts1結合ナノ粒子で処理されたニューロンは、繰り返し刺激を与えることができ、細胞損傷の証拠はなかった。ミリ秒光パルスで標的にした個々のニューロンの中には、効果が衰えることなく、30分にわたり3000を超える活動電位(AP)を生成したものもあった。培養細胞に加えて、Ts1結合ナノ粒子はマウスの海馬のスライスを用いて複雑な脳組織でもテストした。これらの実験で研究チームはニューロングループを活性化し、神経活動のパタンを観察することができた。
「この技術は簡単に導入でき、光を使ってニューロンの活動を明らかにできる。したがって、電極は不要である。さらに、異なる形状のナノ粒子を利用すると近赤外や可視光でも機能する。可視光は、生きた動物では実用的な利点が多い。さらに、ほとんどの光遺伝学ツールは可視光波長に限定されている」とBezanilla氏は指摘している。
Ts1は効果的であったが、非Ts1応答神経集団の刺激はできなかった。細胞標的の総合戦略を開発するために研究チームはナノ粒子をニューロン内の高度に発現した他のタンパク質を標的にする抗体に結合させた。チームは、イオンチャネルTRPV1とP2X3に結びつく2つの抗体を選んだ。Ts1と同様に、これらの抗体結合ナノ粒子で処理されたニューロンは、継続して洗浄した後も光で活性化することができた。
ナノ粒子が多様な抗体と結合し効力を維持することは、人の治療の開発を含め、将来の応用での柔軟性を示唆している。例えば、加齢による黄斑変性など網膜疾患では、光信号を吸収する視細胞が損傷しているか死んでいる。しかし、視覚情報を脳に運ぶ網膜神経細胞は完全であり、健全であることがよくある。こうした細胞を標的にしたナノ粒子は光を吸収してニューロンを直接刺激できる可能性があり、欠陥のある光受容体をバイパスすることができる、と論文の著者は説明している。
「このナノ粒子アプローチを視力回復治療として実施できるかどうかを判断するためには、追加研究をもっと重ねなければならないが、われわれの成果は、これの臨床目的を達成することを狙った一層の努力を勇気づけるものである」とUICの眼科・視覚科学Searls-Schenk教授、David Pepperberg氏はコメントしている。
有害性は観察されなかったが、研究チームは毒性の可能性はあると見ている。とは言え、多くの生きた動物のテストや人の臨床試験は金ナノ粒子の処方を用いてすでに行われているが、深刻な副作用はなかった。研究チームは現在、治療に利用できる可能性を検証するために動物モデルでこの技術の有効性をテストしている。