April, 17, 2015, 和光--理化学研究所(理研)生命システム研究センター細胞極性統御研究チームの岡田康志チームリーダーは、オリンパス株式会社と共同で、世界最高のシャッター速度で、生きた細胞内の微細構造の観察ができる超解像蛍光顕微鏡を開発した。
超解像蛍光顕微鏡は、生命科学の研究を大きく進歩させる画期的な発明として2014年のノーベル化学賞を受賞。しかし、これまでの超解像蛍光顕微鏡は、1枚の画像を作成するために数秒~数分以上の撮影時間が必要で、生きた細胞の中で動くものを観察する「ライブセル・イメージング」に用いるには時間分解能不足という問題があった。
共同研究グループは、超解像蛍光顕微鏡のシャッター速度を従来の100倍高速化(1/100秒の時間分解能)することを目指した。超解像蛍光顕微鏡の原理を最初から再検討した結果、縞模様を描いた円盤を高速回転させて、これを通して撮影するという極めて単純な方法で、より高速に撮影できる超解像蛍光顕微鏡が実現できることを理論的に証明した。スピニングディスク顕微鏡として生命科学の研究に広く使われている共焦点顕微鏡と類似した原理で、超解像蛍光顕微鏡に適用できる。既存のスピニングディスク顕微鏡の円盤部分を新開発したものと交換し、さらに、カメラや照明用レーザなどを改良した結果、従来の光学顕微鏡の分解能限界の2倍に相当する約100nmの空間分解能を得た。また、1秒間に100コマ、1/100秒のシャッター速度で細胞内の微細構造が動く様子の撮影に成功した。
エイズウイルスやインフルエンザウイルスなど多くのウイルスの大きさは100nm程度で、従来の光学顕微鏡では観察できない。開発した顕微鏡を用いれば、ウイルスの感染や増殖の様子を直接見ることが可能となり、疾患の理解や治療法の開発につながると期待できる。
誘導放出制御法(STED)は、超解像蛍光顕微鏡法の1つ。1点ずつ撮影していく方法なので、縦横各1,000ピクセルの視野を撮影するためには合計で100万点の撮影が必要。1点を100万分の1秒で撮影したとしても視野全体の画像を得るには1秒かかる。
もう1つの超解像蛍光顕微鏡法である蛍光分子局在化法では、蛍光分子を1分子ずつ位置計測するため、数千枚~数万枚の原画像の取得が必要であり、撮影に数分程度かかる。
共同研究グループは、第3の超解像蛍光顕微鏡法である構造化照明法(図)に注目した。構造化照明法では、試料に縞模様の照明光を照射する。これにより、試料面の蛍光分子のうち照明光を照射している部分だけが光り、照射していない部分は光らないので、近接した蛍光分子も異なる点だと区別できるようになり、空間分解能が向上する。
実際の撮影では、全ての点にこの効果が得られるように、縞模様の位置や向きを変えながら9~15枚の画像を撮影し、コンピュータ上で計算処理を加えるため、1秒程度の撮影時間が必要になる。
共同研究グループは、時間分解能を100倍向上させるため構造化照明法の原理を再検討した。検討過程で、照明光の縞模様と同じ縞模様のパターンを通して試料を撮影すれば、コンピュータ上での計算処理が不要になることが分かった。これを応用することで、1回の撮影だけで画像を再構成でき、時間分解能の向上を達成できる。
この考察から、共焦点顕微鏡の一種であるスピニングディスク顕微鏡と構造化照明法の理論的関係が得られた。スピニングディスク顕微鏡では、縞模様を刻んだ円盤を通して照明光を照射し、同じ円盤を通して撮影するため、再び縞模様を通過した照明光のみがカメラに入射することで共焦点顕微鏡としての効果が得られることが知られている。この縞模様の間隔を工夫すれば、超解像蛍光顕微鏡に適用できることが分かった。共同研究グループは、この顕微鏡法を「スピニングディスク超解像顕微鏡法(SDSRM:Spinning Disk Super-Resolution Microscopy)」と名付けた。
この原理に基づき、まず既存のスピニングディスク顕微鏡の装置の円盤を理論にそって最適に設計したものと交換し、蛍光ビーズを用いた原理の確認実験を行った。その結果、従来の蛍光顕微鏡では分離できなかった近接した蛍光ビーズが、1個1個きれいに分離できることが示され、理論通りに約100nmの空間分解能を達成できていることが確認できた。これは、従来の光学顕微鏡の分解能限界の2倍に相当する。
さらに、カメラと照明光源を高速撮影に適したものに交換することで、最高1/100秒のシャッター速度(時間分解能)で、生きた細胞内の微細構造を100nmの空間分解能で観察することに成功した。
外膜で包まれているミトコンドリアは、従来の蛍光顕微鏡では空間分解能不足から、外膜の構造を観察できないが、開発したスピニングディスク超解像顕微鏡法で観察すると、外膜の構造を鮮明に撮影できた。さらに、外膜の一部が伸び出したりちぎれたりと活発に運動する様子も撮影できた。これは、生きた細胞を高い時間・空間分解能で観察することにより得られた世界初の画像。疾患状態と健常状態を比較することで、ミトコンドリア病の病態の理解や治療法の開発につながると期待できる。
スピニングディスク超解像顕微鏡法の開発により、生きた細胞の中の微細な構造が動く様子を観察することが可能となった。この顕微鏡法は、すでに生命科学研究の分野で国内外広く用いられているスピニングディスク顕微鏡の改良であるため、他の超解像蛍光顕微鏡に比べて導入は容易である。また、この顕微鏡法の原理を発展させることで、他の共焦点顕微鏡法への適用も原理的に可能と考えられる。
(詳細は、www.riken.jp)