December, 3, 2025, 東京--東京大学大学院理学系研究科物理学専攻および附属フォトンサイエンス研究機構の堀江紘己大学院生、戸田圭一郎特任助教、中村卓磨特任助教(研究当時)と井手口拓郎准教授らの研究グループは、前方散乱光と後方散乱光を同時に定量する「双方向定量散乱顕微鏡」を開発した。
この顕微鏡により、前方散乱のみを検出する従来法に対して約14倍広い強度範囲の散乱信号を検出できるようになり、細胞内の大きな構造から100 nm程度の微粒子まで、幅広いスケールで可視化が可能になった。また、両方向の散乱強度の差を解析することで、細胞内微粒子の屈折率と粒径を定量できることを実証した。さらに、細胞死の過程で細胞内の構造や微粒子の動きの活性度が時間変化する様子を観測した。
この成果は、細胞内の構造と微粒子の動態の関係を明らかにする新たな手がかりとなり、定量位相顕微鏡や干渉散乱顕微鏡といった既存のラベルフリー顕微鏡の応用範囲を広げるものである。
発表内容
ラベルフリー顕微鏡として広く用いられる定量位相顕微鏡(Quantitative Phase Microscopy, QPM)は、試料の屈折率分布に起因する前方散乱光を計測することで、細胞の乾燥質量分布小器官などの構造を可視化できる手法である。しかし、光の量子的なゆらぎ(光量子雑音)により感度に限界があり、高速に動く微粒子の検出は難しいとされている。一方、干渉散乱顕微鏡(Interferometric Scattering Microscopy, iSCAT)は後方散乱光を利用して微粒子を高感度に捉えられるものの、細胞全体の構造を包括的に計測することは困難。両者を同時に計測できれば、大きな構造と小さな粒子の動態を一度に捉えることが可能となり、細胞の多階層的なダイナミクスの理解につながる。
研究では、対向する照明光と共通の検出系を用い、前方散乱光と後方散乱光を同時に定量する顕微鏡を開発した。オフアクシスデジタルホログラフィによる空間周波数多重化技術を用いることで、一枚の画像から前方散乱光と後方散乱光を分離し、それぞれを定量的に画像化することに成功した。
(詳細は、https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/10974/)
論文
Bidirectional quantitative scattering microscopy