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3Dプリンタで開発した世界初の高解像度脳

August, 2, 2024, Vien--ウィーン工科大学(TU Wien)とMedUni Viennaの共同プロジェクトでは、脳線維の構造をモデル化し、磁気共鳴画像法(dMRI)の特殊なバリエーションを使用して画像化できる、世界初の3Dプリントされた「ブレインファントム」が開発された。
TU WienとMedUni Viennaが率いる科学チームが研究で示したように、これらの脳モデルは、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症などの神経変性疾患の研究を進めるために使用できる。研究成果は、学術誌「Advanced Materials Technologies」に掲載された。

磁気共鳴画像法(MRI)は、主に脳の検査に使用される広く使用されている画像診断技術。MRIは、電離放射線を使わずに脳の構造や機能を調べることができる。MRIの特殊な変種である拡散強調MRI(dMRI)では、脳内の神経線維の方向も決定できる。しかし、神経線維束の交点では、方向の異なる神経線維が重なり合っているため、神経線維の方向を正しく決定することは非常に難しい。プロセスとテスト分析および評価方法をさらに改善するために、国際チームはTU Wienおよびウィーン医科大学と共同で、高解像度の3Dプリントプロセスを使用して作成された、いわゆる「ブレインファントム」を開発した。

マイクロチャネルを備えた微小立方体
MRIの専門家であるウィーン医科大学の研究者と、3Dプリンティングの専門家であるTU Wienの研究者は、チューリッヒ大学およびハンブルク・エッペンドルフ大学医療センタの同僚と緊密に協力した。2017年、TU Wienで2光子重合プリンタが開発され、アップスケールプリンティングが可能になった。この過程で、ウィーン医科大学とチューリッヒ大学と共同で、ユースケースとして脳ファントムの研究も行われた。この特許は、現在開発され、TU Wienの研究・移転支援チームによって監督されているブレインファントムの基礎となっている。

視覚的には、このファントムは実際の脳とはあまり関係がない。はるかに小さく、立方体の形をしている。その内部には、個々の脳神経の大きさの非常に細かい水で満たされたマイクロチャネルがある。これらのチャネルの直径は、人間の髪の毛の5倍の細さ。脳内の神経細胞の微細なネットワークを模倣するために、筆頭著者のMichael Woletz(Center for Medical Physics and Biomedical Engineering、MedUni Vienna)とFranziska Chalupa-Gantner(TU Wienの3Dプリンティングおよびバイオファブリケーション研究グループ)が率いる研究チームは、2光子重合というかなり珍しい3Dプリンティング方法を使用した。この高解像度法は、主にナノメートルおよびマイクロメートルの範囲の微細構造のプリントに使用され、立方ミリメートルの範囲の3次元構造のプリントには使用されない。dMRIに適したサイズのファントムを作成するために、TU Wienの研究者は、3Dプリンティングプロセスのスケールアップと、高解像度のディテールを持つより大きなオブジェクトのプリンティングを可能にすることに取り組んできた。高度にスケーリングされた3Dプリンティングは、dMRIで観察すると、様々な神経構造を割り当てることができる非常に優れたモデルを研究者に提供する。
Michael Woletzは、dMRIの診断能力を向上させるこのアプローチを携帯電話のカメラの動作と比較している。「携帯電話カメラでは写真の進化は著しいが、必ずしも新しい、より優れたレンズが必要なわけでなく、撮った画像を改善するのはソフトウエアである。dMRIでも同様で、新開発のブレインファントムを用い、解析ソフトをより精密に調整することで、測定データの品質を向上させ、脳の神経構造をより正確に再構築することができる」。

脳ファントム解析ソフトウェアをトレーニング
したがって、脳内の特徴的な神経構造を忠実に再現することは、dMRI解析ソフトウェアを「トレーニング」するために重要である。3Dプリンティングを使用することで、変更やカスタマイズが可能な多様で複雑なデザインを作成することができる。したがって、脳ファントムは、交差する神経経路など、特に複雑な信号を生成するため、分析が困難な脳内の領域を描写する。したがって、解析ソフトウェアを校正するために、dMRIを使用して脳ファントムを検査し、測定データを実際の脳のように分析する。3Dプリンティングにより、ファントムの設計を正確に把握し、解析結果を確認することができる。TU WienとMedUni Viennaは、共同研究の一環として、これが機能していることを示すことができた。開発されたファントムは、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症などの神経変性疾患の手術計画や研究に役立つdMRIの改善に使用できる。

概念実証にもかかわらず、チームはまだ課題に直面している。「2光子重合の高解像度により、マイクロメートルおよびナノメートルの範囲で詳細をプリントできるため、脳神経のイメージングに非常に適しているが、同時に、この技術を使って数立方センチメートルの大きさの立方体をプリントするには、それなりに長い時間がかかる。そのため、より複雑なデザインを開発するだけでなく、プリントプロセス自体をさらに最適化することも目指している」とChalupa-Gantnerは説明している。
(詳細は、https://www.tuwien.at/)