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3Dプリンタで開発した高精細な脳

April, 8, 2024, Vienna--MedUni ViennaとTU Wienの共同プロジェクトでは、脳線維の構造をモデルにした世界初の3Dプリントされた「ブレインファントム」が開発され、磁気共鳴画像法(dMRI)の特殊なバリアントを使用して画像化できるようになった。
MedUni ViennaとTU Wienが率いる科学チームが研究で示したように、これらの脳モデルは、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症などの神経変性疾患の研究を進めるために使用できる。研究成果は、学術誌「Advanced Materials Technologies」に掲載された。

MRIは、広く使用されている画像診断技術で、主に脳の検査に使用されている。MRIは、電離放射線を使わずに脳の構造や機能を調べることができる。MRIの特殊な変種である拡散強調MRI(dMRI)では、脳内の神経線維の方向も決定できる。しかし、神経線維束の交点では、方向の異なる神経線維が重なり合っているため、神経線維の方向を正しく決定することは極めて難しい。プロセスとテスト分析および評価方法をさらに改善するために、国際チームはMedUni ViennaおよびTU Wienと共同で、高解像度3Dプリンティングプロセスを使用して作成された、いわゆる「ブレインファントム」を開発した。

マイクロチャネルを備えた小さなキューブ MRIの専門家、MedUni Viennaの研究者と、3Dプリンティングの専門家TU Wienの研究者は、チューリッヒ大学およびハンブルク・エッペンドルフ大学医療センターの研究チームと緊密に協力した。2017年、TU Wienで2光子重合プリンタが開発され、アップスケールプリンティングが可能になった。この過程で、MedUni ViennaとTU Wienと共同で、ユースケースとして脳ファントムの研究も行われた。この特許は、現在開発され、TU Wienの研究・移転支援チームによって監督されているブレインファントムの基礎となっている。

視覚的には、このファントムは実際の脳とはあまり関係がない。はるかに小さく、立方体の形をしている。その内部には、個々の脳神経の大きさの非常に細かい水で満たされたマイクロチャネルがある。これらのチャネルの直径は、人間の髪の毛の5倍である。脳内の神経細胞の微細ネットワークを模倣するために、筆頭著者のMichael Woletz(Center for Medical Physics and Biomedical Engineering、MedUni Vienna)とFranziska Chalupa-Gantner(TU Wienの3Dプリンティングおよびバイオファブリケーション研究グループ)が率いる研究チームは、2光子重合というかなり珍しい3Dプリンティング方法を使用した。この高解像度法は、主にナノメートルおよびマイクロメートルの範囲の微細構造のプリントに使用され、立方ミリメートル範囲の3D構造のプリンティングには使用されない。dMRIに適したサイズのファントムを作成するために、TU Wienの研究者は、3Dプリンティングプロセスのスケールアップと、高解像度細部を持つより大きなオブジェクトのプリンティングを可能にすることに取り組んできた。高度にスケーリングされた3Dプリンティングは、dMRIで観察すると、様々な神経構造を割り当てることができる非常に優れたモデルを研究者に提供する。Michael Woletzは、dMRIの診断能力を向上させるこのアプローチを携帯電話のカメラの仕組みと比較している。「必ずしも新しい、より優れたレンズをもたないモバイルフォーンで写真に最高の進歩がみられる。dMRIでも同様で、新たに開発したブレインファントムを用い、解析ソフトをより精密に調整することで、測定データの品質を向上させ、脳の神経構造をより正確に再構築することができる」。

ブレインファントムが解析ソフトをトレーニング
脳内の特徴的な神経構造を忠実に再現することは、dMRI解析ソフトウェアを「トレーニング」するために重要である。3Dプリンティングを使用することで、変更やカスタマイズが可能な多様で複雑なデザインを作成できる。したがって、脳ファントムは、交差する神経経路など、特に複雑な信号を生成するため、分析が困難な脳内の領域を描写する。したがって、解析ソフトウェアを校正するために、dMRIを使用して脳ファントムを検査し、測定データを実際の脳のように分析する。3Dプリンティングにより、ファントムの設計を正確に把握し、解析結果を確認することができる。MedUni ViennaとTU Wienは、共同研究の一環として、これが機能することを示した。開発されたファントムは、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症などの神経変性疾患の手術計画や研究に役立つdMRIの改善に使用できる。

概念実証はしたが、チームはまだ課題に直面している。「2光子重合の高解像度により、マイクロメートルおよびナノメートルの範囲で詳細をプリントできるため、脳神経のイメージングに非常に適している。しかし同時に、この技術を使って数立方センチメートルの大きさの立方体をプリントするには、それなりに長い時間がかかる。そのため、より複雑なデザインを開発するだけでなく、プリンティンプロセス自体をさらに最適化することも目指している」とChalupa-Gantnerは説明している。