March, 7, 2024, 東京--NIMSと東京理科大学からなる研究チームは、少数の有機分子の分子振動を利用して脳型情報処理を行う新しい人工知能(AI)デバイスを開発した。
このデバイスを用いて糖尿病患者の血糖値変化を予測した結果、同種のAIデバイスと比較して著しく高い予測精度を達成した。
機械学習の産業応用が進むなか、計算性能の高いAIデバイスの低電力化、小型化需要が高まっており、ソフトウェアではなく、材料・デバイスが示す物理現象を脳型情報処理に利用した物理リザバーコンピューティングの研究が進んでいる。しかし材料・デバイスのサイズが大きいことが問題だった。
研究では、たった数個の有機分子の分子振動を利用した物理リザバーコンピューティングを世界で初めて実証した。情報の入力は、有機分子(p-メルカプト安息香酸, pMBA)の水素イオン吸着量(化学状態)を電圧印加で制御して行い、水素イオン吸着量に依存して変化するpMBA分子の分子振動の時間変化を記憶と計算に利用する。ごく少数のpMBA分子のみを使用して、糖尿病患者の約20時間の血糖値変化を学習させ、その後の5分間の変化を予測させて実際のデータと比較したところ、従来の同種デバイスによる最も精度の高い予測誤差を約50 %低減することに成功した。
この研究によって、ごく少数の有機分子をコンピュータのように働かせる新技術が得られた。微量材料・微小空間を利用して高性能な情報処理を実現できることは実用上の大きなメリットである。各種センサとの組合せにより幅広い産業で利用できる低消費電力AI端末機器への応用が期待される。
この研究は、NIMSナノアーキテクトニクス材料研究センター(MANA) イオニクスデバイスグループ 西岡大貴研修生(東京理科大学/JSPS特別研究員)、土屋敬志主幹研究員、寺部一弥MANA主任研究者らの研究チームによってJSTさきがけ「新原理デバイス創成のためのナノマテリアル(研究総括:岩佐義宏)」における研究課題「超高速動作イオントロニクスの創成」(JPMJPR23H4)の一環として行われた。
研究成果は、Science Advancesにオンライン掲載された。
(詳細は、https://www.tus.ac.jp)