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ファイバ入りインクが3Dプリントされた心筋を鼓動

August, 2, 2023, Cambridge--過去10年、3Dプリンティングにおける進歩により、バイオエンジニアは、心臓組織や構造を構築する新たな可能性を解放した。目標は、心臓病の新しい治療法発見のための体外プラットフォームの改善を含む。
米国では、心臓病は、全国的に5人に1人が関与する主要な死因である。3Dプリントされた心臓組織を使って、どの治療が個々の患者でベストに機能するかを評価できる。もう少し遠い目標は、インプラント可能な組織の製造である。

Nature Materialsの論文でSEASの研究者は、ジェラチンファイバ入りの新しいハイドロゲルインクの開発を報告している。これは、人の心臓のような鼓動を真似る機能的心室の3Dプリンティングを可能にする。チームは、ファイバ入りジェル(FIG)インクが、心室形状にプリントされた心筋細胞がヒトの心室のように状況に合わせて調整、鼓動することを確認した。

「人々は、臨床設定で起こることを予測する方法として、薬剤の安全性や有効性をテストするために臓器構造や機能を複製しようとしてきた」とSuji Choiは、言う。同氏は、SEAS研究助手、論文の筆頭著者。ところがこれまで、3Dプリンティング技術だけでは、心筋細胞の生理学的に関連する調整を達成することはできなかった。心筋細胞とは、状況に合わせて心筋を収縮するために電気信号を送ることに関与する細胞である。

イノベーションは、プリントできるインクにファイバを加えたことにある。「FIGインクは、プリンティングノズルを通して流れるが、一旦プリントされると、それは3D形状を維持する。その特性により、余分なサポート材料、スカフォールドなしでプリントできることを確認した」(Choi)。

FIGインクを作るためにChoiは、Parkerのラボで開発されたロータリージェット回転技術を利用した。これは、綿菓子がスピンされるのと同様のアプローチを使ってマイクロファイバ材料を作製する技術。ポスドク研究者、論文の共著者、Luke MacQueenは、ロータリージェット回転技術により作られるファイバをインクに加え、3Dプリントするというアイデアを提案した。

「Lukeがコンコンセプトを開発した時、そのビジョンは、その下限を押し下げ3Dプリンタでプリントできるように空間的スケールの範囲を広げることだった。つまりナノメートルスケールまで落とすことである」(Parker)。「超薄ファイバを造る従来法、電気スピニングよりも回転ジェットスピニングでファイバを造るメリットは、タンパク質を使えることである。他の方法では、電気スピニングの電界でタンパク質は劣化する」。

ジェラチンファイバをスピンするためにロータリージェットを使い、Choiは、コットンと同じ外観の1枚の材料を作製した。次に同氏は、超音波処理を使い、そのシートを80~100µm長、約5~10µm径に分割した。次に、そのファイバをヒドロゲルインクにまき散らした。

最も難しい面は、ファイバアライメントと3Dプリントされた構造全体の完全性を維持するために、ファイバとインク内のヒドロゲルの望ましい比率のトラブルシューティングだった。

Choiが、FIGインクを使い2Dおよび3D構造をプリントすると、心筋細胞はインク内のファイバの方向に沿って並んだ。プリンティングの方向をコントロールすることでChoiは、心筋細胞の配列の仕方をコントロールすることができた。

同氏が電子刺激をFIGインクで作った3Dプリント構造に適用したところ、それが、それらのファイバの方向に合わせて協調的な収縮の波を始動することを確認した。

同氏が、より多くのプリント方向とインク配合で実験し、心室のような形状でさらに強い伸縮を生み出せることを確認した。

「実際の心臓と比較すると、われわれの心室モデルは、簡素化され、小型化されている」。チームは現在、より実物に近い、もっと厚い筋肉の壁を備えた、より強力にポンプできる心臓組織の構築に取り組んでいる。実際の心臓組織ほど強くはないが、3Dプリントされた心室は、以前に3Dプリントされた心室よりも5~20倍多くの流量をポンプできる。

チームによると、その技術は心臓弁、2心室ミニ心臓などの作製にも使える。

「FIGsは、AM向けにわれわれが開発した一つのツールに過ぎない。われわれは、他の方法を開発している。再生療法のためにヒトの組織構築を継続して探求しているからである。目標は、ツール主導ではない、生物学構築のより優れた方法の模索では、われわれはツールに依存しない」(Parker)。