October, 16, 2014, つくば--産業技術総合研究所(産総研)電子光技術研究部門光センシンググループ 古川祐光主任研究員は、微弱な生体透過光を効率よく測定して、血中成分を分析できる分光装置の試作機を完成させた。
この試作機は、近赤外光を高感度で高速に分光分析することが可能で、持ち運びが容易なことが特徴。生体を透過した微弱な光の連続的な変動をとらえることができるので、血中に含まれる脂質を、採血することなくリアルタイムでモニタリングすることができる。家庭や職場で日常のカロリー管理ができ、メタボリックシンドロームの予防などへの貢献が期待される。さらに、今後、さまざまな疾患と関連する物質の無侵襲モニタリングへの展開も期待される。
生体組織に入射した光はすぐに減衰してしまうため、光を用いて生体内部の情報を得るには、光を照射した表面近くで拡散反射される光を測定する手法が主流だが、より正確な生体内情報を得るには、生体を透過した光を用いる方がよい。しかし従来の検出技術では、透過光が微弱なため長時間の測定(露光)が必要となり、測定中に体が動いてしまうと信号がうまく取得できない、動的な変化に追従できない、などの問題があった。照射する光源の強度を強くすれば、それだけ透過光も強くなるので、測定のSNR(信号対ノイズ比)は向上するが、安全性の点で、生体に照射できる光の強度には限界がある。
今回は、広い面積から光を集めることで微弱な光でも高速で分光できるようにして、これらの問題を解決し、従来の分光器の1000倍以上の高感度を実現し、安全な光入射強度で生体からの透過光のリアルタイムの分光計測を可能とした。今回試作した装置では、透過した光のスペクトルを求める手法として、光源面積を制限することがないフーリエ分光法をベース技術として採用。さらに、奥行きのある生体に対しても透過光を効率よく装置に導入する工夫を加え、偏光特性を効果的に利用するといった工夫も行った。
今回試作した分光装置による測定から、食事前後の血中脂質成分を推定、食後に中性脂肪が高くなり、約4時間後にピークを迎える様子が計測された。
今回完成した高感度分光装置は、共同研究先企業から来年度の市場への投入を目指す。また、分光分析のアルゴリズムを改良して、さまざまな血中成分の無侵襲測定を行う予定。特に、血糖値などさらに必要性の高い血中成分のリアルタイム測定の実現を目指す。
この技術の詳細は、2014年10月15~17日にパシフィコ横浜で開催されるインターオプト2014で発表される。