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ユーロピウム錯体から記録的な効率で赤色発光

April, 28, 2014, Warsaw--ポーランド科学アカデミー物理化学研究所(IPC PAS)で開発されたユーロピウム錯体で2つの新しい化合物が、赤色発光でこのクラス最高の発光効率を示し、その特性によりOLED薄膜の高速、低コスト製造が可能になる。
 IPC PASの研究チームは、記録的な発光効率を持つ2つの新材料を開発した。これらの化合物が準備は、フォスフィンオキシド(リン-炭素結合を含む酸化有機化合物)を、ユーロピウムイオンベース錯体で共結合基として利用した。スコットランドのセントアンドルーズ大学(University of St. Andrews)研究グループとIPC PASが協力して開発した化合物を用いて、ほぼ単色の赤い光を生成するプロトタイプOLEDを作製した。「両方の化合物とも、われわれが注意深く設計したものであり、そのクラスでは記録的な発光効率を示している。事実、もっと効率のよい赤色エミッタは知られているが、イリジウムを含んでいる。しかしそれは全く違うタイプの材料だ」とIPC PASのMarek Pietraszkiewicz教授は説明している。
 フォスフィンオキシドを用いたユーロピウム錯体からの赤色発光は波長が決まっており、ほぼ612nmになる。この化合物の発光量子収率は90%に達している。
 「狭発光波長域と記録的な効率は、われわれの分子設計によるものだ。幅の広い非常に堅いフォスフィンオキシドをユーロピウム錯体につけた。結果的に、分子に供給されるエネルギーが不必要な振動、回転で浪費されることがなくなっている。周囲に放熱する代わりに効率が向上し、実質的に単色光を実現した」(Michal Maciejczyk博士課程学生IPC PAS)。
 IPC PASで開発され作製された発光材料の重要な優位性は安定性であり、酸素や光にさらしても劣化することはない。同様に重要な点は、溶液からこの材料のフィルムが作製可能であること。OLEDフィルム製造の既存製造技術は通常、真空蒸着を利用する。真空蒸着技術は非常に高価で面倒であり、どこでも利用できるわけではない。また、材料を200~300℃に温める必要があり、これは全ての化合物が対応できる温度ではない。膜を溶液から直接堆積できるとこの問題はなくなり、ユーロピウム錯体を用いるフォスフィンオキシドではこれが可能である。
 この新しい材料で見込があるアプリケーションには、OLEDディスプレイ、照明コンポーネントだけでなく、抗ガン治療に使う伸縮可能で柔軟な皮膚パッチがある。そのようなパッチに使われるユーロピウム錯体ベースの化合物は正確に分かった波長を発するので、適切に選択された活性成分を局所的に活性化することができ、患者の病気の皮膚細胞に他の処置法に先立って処方できる。治療中、皮膚パッチに必要なパワーは、電池からほんのわずかに供給するだけでよい。患者の動きが制約されることはほとんどなく、入院はもはや必要でなくなると考えられる。