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脳転移の最初の瞬間に光を当てる

December, 19, 2025, 東京--東京科学大学他で構成される研究グループは共同で、ガン細胞が脳に転移する「最初の瞬間」に脳の免疫細胞・ミクログリアがガン細胞を直接“食べて”排除することを生体内の観察に優れた2光子顕微鏡で観察し、明らかにした。

脳転移は治療が難しく、多くの患者の生命を左右する。これまで、別の臓器から飛来したがん細胞の「種」が血流に乗って脳にばら撒(ま)かれた直後、脳の防御を担う“番人”であるミクログリアが、なぜガンの成長を許してしまうのかは謎だった。

この研究では、生きたマウスの脳を2光子顕微鏡で観察し、ガン細胞とミクログリアの“攻防戦”をリアルタイムに記録した。すると、一部のミクログリアはガンを積極的に食べて排除する一方、別のミクログリアは逆にガンの生存や成長を助けることが観察された。研究チームは、独自に開発した「オプト・オミクス」により、ガンの「種」の周囲で働くミクログリアだけに光を当てて印を付けて回収し解析した。単細胞解析や時系列の腫瘍の発現解析などとデータ統合することで、ガン細胞が持つ「2224」などの“食べないで”シグナルがミクログリアの攻撃をかわす鍵であることを明らかにした。これらの分子を除去すると、ミクログリアは再び強力にガンの「種」を攻撃し、脳転移が大幅に抑制される。この成果は、ガンが脳に根付く前に「自然免疫の力」で芽を摘むという新しい治療戦略につながる。今後、脳転移を未然に防ぐ医療の実現が期待される。

研究成果は、2025年12月10日(日本時間12月11日0時)に米国癌学会発行の学術誌『Cancer Research』オンライン版に掲載された。

研究グループ
東京科学大学(Science Tokyo) 総合研究院 難治疾患研究所 計算システム生物学分野の島村徹平教授は、名古屋大学 大学院医学系研究科 分子細胞学の辻貴宏研究員(当時)(現:米国フレッド・ハッチンソンがん研究センターPostdoctoral Fellow)、和氣弘明教授(生理学研究所教授/クロスアポイントメント)、京都大学大学院 医学研究科 呼吸器内科学の平井豊博教授、国立がん研究センター研究所 腫瘍免疫研究分野の西川博嘉分野長(名古屋大学大学院 医学系研究科分子細胞免疫学教授、京都大学大学院 医学研究科附属がん免疫総合研究センターがん免疫多細胞システム制御部門教授/クロスアポイントメント)

(詳細は、https://www.isct.ac.jp)