September, 6, 2022, Wien--指先サイズのチップが、大きなラボ装置に取って代わる。瞬時に液体内容物を分析する赤外センサがTU Wienで開発された。
分析化学では、液体のある物質の濃度変化を秒のタイムスケールで正確にモニタすることが必要になることがよくある。特に製薬産業では、そのような計測は、非常に高感度かつ高信頼でなけれはならない。
このタスクに最適、独特の方法で複数の重要な利点を統合した新しいタイプのセンサがTU Wienで開発された。カスタマイズされた赤外技術に基づいて、それは以前の標準デバイスよりも著しく感度が優れてい。さらに、それは幅広い範囲の分子濃度に使え、液体内で直接動作可能である。これは、それの化学的堅牢性の結果であり、リアルタイムで、瞬時にデータを提供する。これらの結果は、Nature Communicationsに発表された。
異なる分子が、異なる波長を吸収する
「分子の濃度を計測するには、われわれは中赤外スペクトル域の放射を利用する」とBorislav Hinkovは言う。同氏はTU Wien固体エレクトロニクス研究所の研究プロジェクト長。
これはよく知られた技術である。分子は中赤外域の特殊な波長を吸収するが、他の波長は減衰なしに透過される。したがって、様々な分子が、非常に特殊な「赤外フィンガープリント」を持つ。波長依存吸収強度プロファイルを正確に計測することにより、所定時間にサンプルの特定分子の濃度を判定できる。
赤外分光計は、長い間、ガスセンシングで、ごく普通に使われてきた。TU Wienチームの新たな成果は、この技術を爪先サイズのセンサチップへの実装である。これは、特に液体センシングに適している。そのようなセンサを開発することは、分析的な問題であると共に技術的な課題でもあった。液体は、気体よりも遙かに強力に赤外放射を吸収するからである。コンパクトな液体センサは、固体電子研究所のBenedikt Schwarzとの協働で実現され、TU Wien最先端クリーンルーム、マイクロ・ナノ構造センタで作製された。
「われわれは、計測に数マイクロリットルの液体が必要なだけである。そのセンサはリアルタイムでデータを提供する、1秒に何度もである。したがって、われわれはリアルタイムで濃度変化を正確にモニタでき、ビーカーの中の現段階を計測できる。これは他のレファランス技術と好対照をなす。その場合、サンプルを採り、分析し、結果を待つのに数分かかる」(Borislav Hinkov)。
異分野間の協力がカギ
これは、TU Wienの電気光学や化学学部間の協力で可能になった。固体エレクトロニクス研究所は、いわゆる量子カスケードレーザ(QCLs)やディテクタの設計、製造で幅広い経験を持つ。それらは微小な半導体ベースのデバイスであり、そのマイクロ構造およびナノ構造に基づいて正確に定義された波長で赤外レーザ光を放射、検出できる。
そのようなレーザによる赤外放射は、マイクロメートル長スケールで液体に浸透し、同じチップ上のディテクタで計測される。これら特殊統合の超コンパクトなレーザとディテクタを使い、センシングデバイスが実現された。その性能は、初の概念実証計測でテストされた。研究は、化学技術と分析研究所のBernhard Lendlグループとの協働で行われた。
実験デモンストレーション、タンパク質はその構造を変える
新しい中赤外センサの性能を実証するために生化学反応が選択された。既知のモデルタンパクを加熱し、それによりその幾何学的構造を変える。当初、タンパク質はラセン状コイル形状であるが、もっと高温になると、平面構造に開く。この幾何学的変化は、タンパク質の特殊中赤外フィンガープリント吸収スペクトルも変える。「われわれは、2つの適切な波長を選択し、適切な量子カスケードベースセンサを作製した。これを1個のチップに組み込んだ。実に、このセンサを使って、選択されたモデルタンパク質の、いわゆる変性、高感度かつリアルタイムで観察できる」(Borislav Hinkov)。
その技術は、極めて柔軟である。異なる分子を調べるために、必要に応じて必要な波長を調整できる。また、同じチップ上に量子カスケードセンサを追加して、様々な波長を計測し、多様な分子の濃度を同時に区別できる。「これは、分析化学に新たな領域開く。液体のリアルタイム中赤外分光である」(Borislav Hinkov)。可能なアプリケーションは、極めて多様である。タンパク質の熱による構造変化、他の分子の類似の構造変化から、化学反応のリアルタイム分析までである。例えば、医薬品製造、産業製造プロセス。液体における化学反応の動力学をモニタする必要があるところではどこでも、この新技術が重要な利点となり得る。
(詳細は、https://www.tuwien.at/)